「脚の付け根にある股関節に痛みを抱える人は400万〜500万人ほどいるといわれています。そのうちのほとんどの人が、『変形性股関節症』が原因とみられます。特に日本では40代〜50代の女性が発症することが多いのが特徴です」
そう解説してくれたのは、股関節のスペシャリストで、日本股関節学会の理事長も務める、神奈川リハビリテーション病院の病院長の杉山肇先生だ。
「股関節は、骨盤と大腿(たいだい)骨のつなぎ目の大きな関節です。お椀(わん)のような形をした骨盤の臼蓋が、ボール状の大腿骨の先端を包み込んでいて、さまざまな方向に足が動くようになっています」
体の中心で体重を支え、歩く、体を曲げる、しゃがむ、座るといった日常のさまざまな動きに関係する股関節。それだけに、かかる負担はほかの関節と比べても大きいという。
「私たちが片足で立ったときには体重の約3倍、歩いているときには約10倍もの負荷がかかるといわれます。この股関節の『関節軟骨』がすり減って痛みを引き起こすのが変形性股関節症です」
「関節軟骨」は、さまざまな関節部にあり、骨と骨の間で、クッションと、関節がスムーズに動くようにする役割を担っている。
「関節軟骨は一度失われると、基本的に再生することはない、いわば“消耗品”のようなもの。激しいスポーツや過度の肥満による負担に加え、単純に年齢を重ねるだけでもすり減っていってしまうのです。そのすり減りやすさは、それぞれの人の生活習慣や関節の形などに左右されます」
対策には早期発見が欠かせない。チェックリストで該当する項目がないか確認しよう。
「股関節にはさまざまな神経が通っていて、その不調が神経のつながっているお尻や背中、ひざなどに痛みとして出ることも多い。年間200〜300人ほどの初診患者さんを診ていますが、その半分が最初はひざ痛や腰痛と診断されたが治らなかったという人です」
家族からの指摘で気づくこともあるという。
「“足を引きずっている”とか“左右に揺れながら歩いている”と指摘された場合は注意が必要です」
疑いがあれば、病院を受診しよう。ベテランの専門医であっても変形性股関節症と見抜くのは難しい場合もあるが、現在はMRIなどの画像検査の普及で、診断がしやすくなっている。症状を遅らせたり、予防するには、ライフスタイルの見直しが大切だ。
「和式の生活での座る、立つ、しゃがむ動作は、股関節に大きな負担をかけます。椅子やベッドなどを使う洋式の生活のほうが股関節の負担は少なくなります。床に座るときも、立つときに椅子や壁などに手をつくと負担を減らせます」
また、骨粗しょう症は変形性股関節症の進行を早めるので、こちらにも気を付けたい。
「股関節のまわりには、インナーマッスルという体の深部にある小さな筋肉がたくさんあります。これを鍛えることも、股関節を守るのに有効です。おすすめはプールでの運動。股関節に負担をかけずに鍛えることができます」