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「遺族年金は被保険者が亡くなったとき、残された家族に支給される公的年金です。国民年金や厚生年間に加入していても、本人が亡くなった時点での家族構成、年齢などによって受け取れるかどうか、また、年金額も変わってきますので、制度そのものがわかりにくいのです。そこにきて近年、家族の関係が複雑になったこともあり、トラブルにつながるケースもあります。もらい損ねることにならないためにも、しっかりと制度を理解しておくことが大切です」

 

そうアドバイスするのはこれまで約3万人の年金相談を受けている社会保険労務士の笹沼和子さん。

 

遺族年金には2つあり、自営業者やフリーランスが加入する国民年金から支給される遺族基礎年金と、会社員や公務員などが加入する厚生年金から支給される遺族厚生年金がある。

 

遺族基礎年金を受け取れるのは、子どもがいる配偶者と子ども。ただし、受け取るには「子どもの年齢が18歳になった年度末(3月31日)、子どもが障害等級1、2級のときは20歳まで」といった要件がある。

 

「亡くなった人が会社員や公務員で厚生年金に加入していた場合や、すでに老齢厚生年金を受け取っていた場合は、遺族厚生年金がもらえます。年金額は老齢厚生年金の4分の3。配偶者がいない場合は、ほかの家族が受け取る順位が決まっています」

 

【遺族厚生年金が支給される順位と要件】

 

〈1位〉配偶者・子

配偶者:妻の場合、年齢は問われないが、夫の場合、55歳以上。(注)妻が夫の死亡当時30歳未満で、18歳未満の子がいない場合は、5年間の有期給付となる

子:18歳に到達した年度の末日までの子(または障害等級1級、2級で20歳未満の子)で、婚姻していない子

 

〈2位〉父母:55歳以上
〈3位〉孫:要件は子と同じ
〈4位〉祖父母:55歳以上

※遺族厚生年金は遺族の中で最も順位の高い人にだけ支給される

 

「トラブルが多いのは遺族厚生年金のほうで、事実婚や離婚した夫婦など、さまざまな家族の形があるので、『受け取れると思っていたのに受け取れなかった』『受け取れるとは知らなかった』といったトラブルに発展しやすいのです」

 

そこで、笹沼さんに主な「注意すべきケース」を教えてもらった。トラブルを回避するためにもしっかりと備えておこう!

 

【ケース1】“離婚した元夫”の遺族年金を受け取れることを知らなかった

 

B子さん(40)は夫(享年45)と2年前に離婚した。原因は夫のモラハラ。中学生の娘(14)がいたので、大学を卒業するまで毎月、養育費を受け取ることになった。

 

「ある日、養育費の振り込みが途絶えたので元夫に連絡をすると、元夫の父が電話に出て、元夫ががんで亡くなったことを聞かされたそうです。B子さんは『自分は元夫の遺族年金は一切もらえない』と思い込んでいましたが、18歳の年度末までのお子さんがいれば、お子さんのほうに遺族厚生年金を受け取る権利があります」(笹沼さん・以下同)

 

年金制度では、両親の離婚後も親子関係はなくならないのだが、その際、ポイントとなるのは、「生計が同一」という記録があることだという。

 

「『生計が同一』という関係を証明するために、生活費や養育費は銀行口座に振り込んでもらうと、通帳が記録となるので安心できます。『死後の手続き』をする元夫の両親とよく相談することをお勧めします」

 

【ケース2】“事実婚の夫”の遺族年金を受け取れることを知らなかった

 

C子さん(60)は長年一緒に住んでいた夫(享年65)が死んだとき、葬式で親戚から「遺族年金をもらえる権利がある」と言われた。

 

「夫には別居中の妻(64)がいて、離婚の協議が一向に進まなかったのですが、ようやく離婚。すぐに入籍しないでそのままにしていたら、夫が急死してしまったのです。年金の夫婦関係は内縁関係でも認められます。ポイントとなるのは、住民票が一緒であること。C子さんの場合、住民票が一緒で、夫のお葬式の喪主も務めました。また、年賀状も連名で出していた、といったことから事実上夫婦と認められ、C子さんに遺族厚生年金が支給されました」

 

妻との離婚が成立していなくても、戸籍上の配偶者に数十年も生活費を渡していないなど、「生計維持関係がない」と認められると、内縁関係の妻に遺族年金が支給されることがあるという。

 

ケースバイケースなので「もらえない」とあきらめる前に専門家に相談してみよう。

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