買い物するとき、なぜ自分がこの商品を選んだのか考えたことはありますか? 実は、脳と直感のなかに面白いからくりが隠されているかもしれませんーー。
「あの買い物、失敗だった!」
こう後悔した経験がない人はいないだろう。ものを買うとき、「私たちには意思決定する際のクセがある」というのは、東京大学で行動経済学を研究する阿部誠先生だ。
「経済学では古くから、人はいつでも合理的に行動すると考えられていました。ですが、冒頭の衝動買いなど、合理的とはいえない行動も多いですよね。こうした人の心理や感情などを考え、現実的な分析を行うのが行動経済学です。これはビジネスの場では『マーケティング』と呼ばれ、商品を売るためなどに活用されています」(阿部先生・以下同)
私たちは自分で商品を選んでいるつもりだが“選ばされている”状況があるという。
ムダ遣いはできる限り抑えたい。本当のお得を見極め、選択するためにどう考えればいいのか、身近な例をあげ教えてもらおう。
【ケース】うな重の松・竹・梅どれを選ぶ?
うなぎ屋さんでよく見る「松・竹・梅」。商品の内容はどれもうな重で同じだから、あとは品質と価格の兼ね合いで選ぶしかない。
「人は選択肢が2つだと迷いがちですが、選択肢が3つになると選びやすいと感じる人が多いです。それは、極端なものを避け、無難なものを選びたいという傾向があるからです。2択だとどちらも極端なので選びづらいのですが、3択になると極端なものが明確ですからね。うな重の松・竹・梅も、竹を選ぶ人が圧倒的に多いです」
松だとぜいたくすぎるし、梅だと寂しいかなと考えたのだが……。
「そう考えるように、誘導されているのです。たとえば値段はそのまま、竹と梅しかなかったらどちらを選びますか。『今日はリッチに竹で』という人も、『リーズナブルな梅でいいわ』という人もいるでしょう」
店は、売り上げが上がる松を売りたいのだろうか?
「実は、売り手にとって松は“おとり商品”です。店のねらいは高価な松を売ることより、おとりとして松を示すことで、真ん中の竹を多くの人に選んでもらうこと。そうすると、2択のころより売上総額が増えます」
そうとは知らず、何度も引っかかったことがある。私たちは、どう判断すればいいのだろうか。
「食べたいものを食べるのがいちばんです。『まず極端を避ける』のではなく、自分の好みにマッチしたものを選びましょう。ひょっとしたら、店側はあまりおすすめしたくない梅に、お得感があるかもしれませんよ」