墓参りに行くたびに、実家に帰るたびに「この墓、この仏壇はどうなるんだろう……」と不安になっているそこのあなた。今回のお彼岸をそう思う最後の機会にしませんかーー?
「母が老人ホームに入所したのですが、個室のスペースに限りがあるので、位牌しか持っていけません。仏壇はどう処分すればいいのか……」(50歳女性Aさん)
「両親が死に、実家は処分したけど、近くの墓はそのまま。子どもに墓を継がせるのはかわいそうなので、墓じまいして都内の永代供養墓に移したい」(56歳女性Bさん)
仏壇を掃除したり、墓参りしたり……毎年、お彼岸の時期になると気になるのが、お墓や仏壇の行方だ。葬祭カウンセラーで行政書士の勝桂子さんはこう語る。
「親の死を迎える50代、60代の人たちにとって、切実な悩みです。悲しいことですが、お墓や仏壇が“やっかいなもの”になっているケースが多いんですね」
解決したくともお墓や仏壇などに明確な処分方法が決められているわけではない。それだけに、お寺や業者から、過剰な請求をされるというトラブルもある。いったい、処分にはどのような方法があるのか、どのくらいの費用が相場か知っておいたほうがいいだろう。
「家具や普通の道具などの処分と違って難しいのは、心の問題があること。安く処分することだけではなく、仏壇、位牌、お墓を大事に守ってきた親たちの“心”を、受け止めることも大事なのです」
そう語る勝さんに、“墓じまい”の方法を聞いた。
【仏壇】粗大ごみで出せるが、できれば“お焚き上げ”で
前出のAさんは、菩提寺に仏壇の処分方法を聞くと、このようなやりとりがあったという。
「仏壇を処分したいんですが」
「お気持ちの整理ができていれば、大丈夫ですよ」
「どう処分すればいいですか?」
「まあ、普通に……」
「普通にって、粗大ごみですか?」
「そんな感じです」
「御霊抜きはいいんですか?」
「仏壇に御霊が入っている場合もあるし、入ってない場合も……。お気持ち次第ということで」
Aさんが続ける。
「お坊さんの立場もあるので言葉を濁しながらですが、粗大ごみでよいという答えでした。実際に調べると、粗大ごみなら1,000円で処分できるようでした」
費用は自治体によって異なる。たとえば、東京都文京区の粗大ごみの分類では、仏壇は「箱物家具」に含まれる。いちばん小さい分類の高さと幅の合計が135センチ未満のものであれば400円。いちばん大きい360センチ以上でも2,800円というのが廃棄費用だ。
「しかし、抵抗があったので、遺品整理業者に依頼し、供養してもらいました。費用は2万円でした」(Aさん)
お寺にお焚き上げをお願いする方法もあると、勝さんは言う。
「菩提寺に相談しづらいのであれば、近所のお寺でもかまいません。ただし、名目上は“お焚き上げ”でも、実際は粗大ごみにしているケースもあります。役所の許可を得ている一部の神社やお寺を除いて、焼却は防災上できないためです」
結果が同じだとしたら、宗教観次第では、そのまま捨ててしまってもいいかもしれない。
「しかし、お寺にお願いすればご供養してくれるので、気持ちも楽になると思います。菩提寺に頼むのであれば5,000〜1万円ほど、とくにお付き合いのないお寺に頼むのであれば1万〜2万円ほどが、お布施の相場ですね」(勝さん・以下同)
【位牌】法的には一般ごみでも“御霊”は抜いて
法的にはごみとして捨てられる。一般的な木製のものであれば燃えるごみ、プラスチック製のものなら燃えないごみに該当する自治体が多い。捨てる場合は、外から見えないように、布や不透明な袋にくるんだほうがいいだろう。
「しかし、一部の宗派を除き、一般的に戒名が書かれた位牌には、故人の魂が入っていると考えられています」
すでに魂を抜く“御霊抜き”がされている場合を除き、しっかり供養してから処分するべきだ。
「菩提寺が遠い場合は、近くのお寺でも御霊抜きと処分を引き受けてくれるはずです。お布施は最低でも5,000円、目安は数万円です」
【お墓】かかる費用は菩提寺次第のことも
本来、墓じまいの手続きは改葬許可申請書を行政に提出するだけでいい。ただし、書類には墓地の管理者の記名押印が必要になる。将来の管理料やお布施がなくなると寺院運営にとって大打撃なので、“離檀料”を払わないと押印してくれない寺などもあるという。
「こうした“墓質”がメディアで取り上げられたこともあり、最近ではトラブルの件数はだいぶ減ったように思います。それでも“お金を請求できる最後の機会”とばかりに、都内であれば、700万円や1,000万円という法外な“離檀料”を要求されたケースも。大事なのは、金額の根拠をしっかり聞き、墓じまいする理由も含め、じっくり話し合うことです」
墓地を更地に戻す費用は、必ずかかる。
「一般的なお墓でも20万〜30万円ほどかかります。墓が斜面にあったり、床材に大きな天然石を使用していれば重機が必要なため、80万〜100万円ほどかかる場合も。いずれにせよ、複数の業者で見積もりましょう」
“離檀料”は法的には根拠のないお金だが、「長年、お勤めを毎日してくれたお礼は払ってもいい」と、勝さんは考える。
「どういったお付き合いをしてきたかでお布施の額は変わります。10万〜30万円ほどを支払う人が多いです。家計が厳しければ3万〜5万円でもいいでしょう」
十分に話し合いをしても、納得いかない金額を提示されたら……。
「最終手段として『放置』というのも一つの方法。それで困るのはお寺ですから」
また、近年、気をつけたいのは“逆墓じまい”だ。
「お寺も生き残るため、墓地のスペースを区画整理して納骨堂を建てたりしています。墓地の撤去は、寺がその旨を『官報』という政府が出している文書に掲載し、墓の近くに張り紙をして、1年間持ち主から異議がなければ可能です。久しぶりに墓参りに行ったら、墓がなかったというケースも、実際にある。菩提寺とのコミュニケーションは大切です」
墓や仏壇の行方は、いずれ決めねばならないこと。ぜひ、このお彼岸を機会としよう。