’23年度の公的年金は、3年ぶりに増額が決まりました。年金支給額は68歳以上で1.9%、67歳以下は2.2%増えます(23年1月20日・厚生労働省)。厚生年金の夫婦2人モデル世帯で、月4889円増えて22万4482円。国民年金は40年間保険料を納めた満額支給の方で、月1434円増えて6万6250円です(どちらも67歳以下)。4~5月分を受け取る6月から受給額が変わります。
年金が増えて喜んでいる方もいるでしょうが、実は物価を考え合わせると、年金は実質目減りの状態にあるのです。本来、年金は物価の上昇と共に受給額が上がる仕組みでした。しかし、年金の支え手である現役世代が減り、財源不足が問題です。それらを解消し「100年安心」な年金にしようと’04年に年金改革法が成立。「マクロ経済スライド」を導入して、年金額の抑制を図りました。
これは、物価などの変動率から、現役世代の人口減少と平均余命の延びから算出される「調整率」を差し引いた割合しか年金を上昇させない仕組みです。その結果、物価が上昇しても以前のように年金は増えなくなりました。
■年金だけでは物価高に対抗できない
しかし、マクロ経済スライドは物価などの下落時には発動されないのがルールです。デフレ下でずっと発動されずに10年余りが過ぎ、初めて実施されたのは’15年度でした。マクロ経済スライドの実施が少ないままでは、年金額の抑制は進みません。そこで’18年度からは、マクロ経済スライドが実施できなかった年分の調整率を、翌年以降に持ち越す「キャリーオーバー制度」が導入されました。
今年、物価の上昇を受けて3年ぶりにマクロ経済スライドが発動されました。そのため、物価の上昇に対して、年金の増額が低く抑えられています。 ここで’23年度の改定率を見てみると、68歳以上の方の年金額は’22年の物価変動率2.5%が基準です。ただし2.5%の増額から、’23年度の調整率0.3%と’21年度・’22年度のキャリーオーバー分0.3%が引かれ、1.9%の増額に抑制されたというわけです。
年金額の抑制は、若者世代の負担を減らすために必要な措置でしょう。とはいえ、’22年12月の消費者物価指数は前年同月比で4%の上昇。いまは41年ぶりの物価高です。値上げが相次ぎ、年金生活者の家計は火の車だと思います。
国にはこうした状況に配慮して、たとえば「今回のみキャリーオーバー分は据え置く」などの措置をとってほしいものです。でも、岸田内閣は検討すらしていないでしょう。わが家の家計は、自分で守るしかありません。’23年度の年金額は、物価高に対応できていないと肝に銘じ、お金を使わない生活にシフトしましょう。徹底的にムダを排除し、家計のダウンサイジングに努めてください。