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日本は現在、世界第2位の長寿国だという。厚生労働省が7月下旬に公表した’16年の日本人の平均寿命は、女性が87.14歳、男性は80.98歳と、過去最高となった。だが、健康な状態で日常生活を送ることができる「健康寿命」と平均寿命は、女性で13年もの開きがあるそう。誰もが「ピンピンコロリ」にあこがれてはいるが、終末期になると寝たきり状態になってしまう人も多い。

 

「しかし、日本の農村や離島には、かなり高齢になっても自分の足で歩き、自分で食べている、健康寿命のお手本のような地域があります」

 

そう語るのは、『100歳まで元気な人は何を食べているか?』(三笠書房)の著者で、特定国立研究開発法人・理化学研究所特別招聘研究員の辨野義己先生。辨野先生は長年、腸内細菌と健康の関係を研究し、長寿村と呼ばれる地域を訪ね歩いている。そこで高齢者たちの腸内細菌を解析したところ驚きの結果が出たという。

 

「大腸から全身の健康をつくる主役となる菌のグループを、ついに特定したのです。私は長寿菌と名付けましたが、それは酪酸産生菌(大便菌・ラクノスピラ)とビフィズス菌でした」

 

ビフィズス菌は善玉菌として有名だが、酪酸産生菌の役割とは?

 

「食物繊維を取ると、酪酸産生菌が増えて、酪酸(短鎖脂肪酸)が生まれます。この酪酸は余ったエネルギーを脂肪にするのを防ぐほかにも、がん細胞の抑制、免疫力の向上といった効果があるのです」

 

辨野先生によると60代以上の腸内細菌の30%が長寿菌だが、長寿村の高齢者の場合、それが50%以上もあったのだ。腸内環境を整え、いかに長寿菌を増やすかが、“100歳まで生きる”秘訣という結論に達した辨野先生。さらに“長寿菌を増やすための食事”を分析することに。

 

’80年代に全国に先駆けて長寿村として有名になった山梨県上野原町の棡原地区(現・上野原市)では、山間部で栽培されている麦などの穀物、野菜、山菜、いも類といった食材に注目した。

 

「棡原では大麦の皮をむいた丸麦を一晩水に浸してから柔らかく炊いた『おばく』が主食でした。ほかにも、こんにゃくいも、豆腐など、とにかく食物繊維がふんだんに取れる献立でした。食物繊維も腸内環境を整える上で欠かせません。その上、傾斜のきつい坂道を1時間以上歩いて農作業に従事していた人が多く、下半身の筋肉が鍛えられていました。下半身の筋肉を動かすことは、腸を刺激して便通を促します」

 

また長寿村では、日本が誇る伝統食“味噌”もよく食べられている。発酵食品である味噌も長寿菌を増やす食べ物である。

 

群馬県・南牧村では、味噌を使った「シソ巻き」という郷土料理がある。砂糖やごまを加えた味噌をしその葉で巻き、高温の油でさっと揚げたもの。ごはんのおかずとしても、お茶請けとしても食べられている。

 

隠岐諸島の一つ、島根県・知夫里島は、なんと65歳以上の島民の要介護期間が平均0.51年という「ピンピンコロリの島」だ。

 

「島では和牛の飼育がさかんですが、島民の皆さんは、牛は家族なので食べないと言っていました。その代わり、畑で育てた野菜と、海で採った海藻を主に食べていました」

 

島民は、きゅうりなどの野菜に大豆と麦に米麹と麦麹を加えてつくる「なめみそ」をつけて食べる。また、島の沿岸で採れる海藻の一種・ホンダワラ、通称じんば草は食物繊維やミネラル、タンパク質が豊富。これを酢味噌で食べたり、漬け物「じんば漬け」として食べるのだ。

 

通常、腸内環境を整えるビフィズス菌は、老化とともに減っていき、60〜80歳の平均は大便1グラムあたり約1億個という。ところが鹿児島県・奄美大島で、100歳のおばあちゃんの大便を採取したところ、60〜80歳の平均の30倍以上の31億個ものビフィズス菌が見つかったそう。ちなみに奄美大島には人口約11万3,000人に対して、100歳以上の女性が134人(’15年時点)もいた。

 

「100歳のおばあちゃんがいるご家庭におじゃまして、いつもの食事をいっしょにいただきました。あずき入りのおかゆに、豆腐と海藻の味噌汁、玉ねぎやセロリの野菜サラダ、ゴーヤーのりんご酢漬け、さつまいもと、食物繊維だらけのメニューでした」

 

これらの長寿村に共通するのは、食物繊維や発酵食品をたっぷり取り、腸内環境を整えているだけではなかった。

 

「皆さんが日常的に食べているものは、自分の畑でとれた野菜、あるいは海で釣った魚と、自給自足が基本でした。群馬県の南牧村は『寝たきりにならない村』と呼ばれているように、農作業などを通して高齢になっても体を動かしています」

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