「最近の腰痛治療の現場では、腰痛を患っているみなさんがこれまで常識と思っていたことが、じつは正しくないことがわかってきました」
こう話すのは、東京大学医学部附属病院特任准教授の松平浩先生。腰痛に取り組んで18年の専門医・松平先生によれば、
・ギックリ腰になったら痛みが消えるまで安静にする。
・背骨に変形があるので腰痛とは一生の付き合いだ。
・腰痛があるときは心配だからコルセットをし続ける。
・腰痛はすべて腰に原因がある。
といった「腰痛常識」はすべて覆されているという。
「逆に腰痛のときには安静にしすぎないことが、いまや世界的に腰痛治療の常識となっています。また『もう治らない』というような悲観的な考えが『脳』に作用して、腰痛が悪化していることも考えられるようになってきました」
なんと病院で医師が診察や画像診断を行って原因がわかる人は、坐骨神経痛を伴う椎間板ヘルニア(腰椎の椎骨と椎骨の間にある椎間板が飛び出してしまう病気)や腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう・背骨内部の神経の通り道が狭くなって起こる病気)、脊椎骨折など、わずか15%しかいないというのだ。
「まれに感染や腫瘍、さらには循環器系、泌尿器、婦人科系疾患が原因のこともありますが、いずれにせよ、原因がわかれば治療方針が決まります。問題は残りの85%。画像診断などでは特定できない非特異的腰痛です」
こうした場合はいわゆる外科的治療をしても完治するとは限らない。
「慢性腰痛(痛みが3カ月以上続く腰痛)やギックリ腰もじつは非特異的腰痛。腰痛を自覚したら、自分は特異的か非特異的か、どちらの可能性が高いかを見極めることが大事なんです」
そこで松平先生の長年の治療経験をもとに、腰痛チェックリストを作成した。
○転倒・尻もちの後に痛みだし、日常生活に支障が出る。
○65歳以上の女性で、朝、布団から起き上がる際に背中や腰に痛みを感じる。
○横になっても痛い、楽な姿勢がない。
○鎮痛剤を1カ月使用してもがんこな痛みが改善されない。
○痛みやしびれがおしりからひざ下まで広がる。
○肛門、性器周辺が熱くなる、しびれる。尿が出にくい、歩いていて尿がもれそうになる。
○かかとを浮かせてつま先だけで歩いたり、つま先を浮かせてかかとだけで歩いたりすることがむずかしい。脚の脱力感がある。
「ひとつでも当てはまるものがあったら、特異的腰痛の可能性がありますので、早めに医師の治療を受けることが必要。逆にどれも当てはまらなかったら、非特異的腰痛の可能性が高いです」
原因不明の腰痛を招いているとされるもののひとつ「脳」。通常、痛みを感じたときは、脳のある部分から痛みを和らげる脳内物質が出て、しだいに治まっていく。ところが腰痛に対する恐怖や不安があると、脳の機能が不具合を起こし、この脳内物質の分泌が抑えられてしまうのだという。
「こうした悲観的な思考によって、必要以上に腰を大事にすることを『恐怖回避的思考』と呼びますが、これが腰痛を悪化させるのです」
必要以上に腰を大事にして、体を動かさないことが、慢性腰痛やギックリ腰、椎間板ヘルニアなどにつながるというから要注意だ。