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「甲状腺機能障害は更年期障害や認知症、糖尿病など、ほかの病気と症状が似ているので、甲状腺に疾患があるのに気づかれないことが、多かったのです。最近は、検査の精度や検査を受ける機会が増えたことで、甲状腺の疾患が見つかりやすくなったことが増加の一因だと考えられます。甲状腺になんらかの疾患を抱える方は、国内で約500万人と見込まれます。高血圧や糖尿病に匹敵するくらいの数だと言えるのでは」

 

そう語るのは、甲状腺疾患専門の伊藤病院(東京都)の吉原愛先生。甲状腺機能障害とは、首の前にある甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの量が低下したり、逆に増えすぎたりすることで、代謝が正常に行われなくなり、代謝が正常に行われなくなり、倦怠感や、動悸、イライラなど、さまざまな体の不調を引き起こす病気だ。

 

厚生労働省の患者調査によると、甲状腺機能障害の患者は年々増加しており、’08年度の約48万人から、’14年度には約71万人へと、約1.5倍に増えている。しかも、男女比でいうと男性1人に対して女性は5.4人と多く、年代も20代から75歳以上の高齢者までと幅広いという。

 

「甲状腺機能障害は、大きく分けると、甲状腺ホルモンの過剰分泌で起こる甲状腺機能亢進症と、不足することで起こる甲状腺機能低下症の2種類があります。甲状腺ホルモンは体の新陳代謝や、脈拍、細胞の生まれ変わりなどのサイクルを、一定に保つ働きがあります。分泌されるホルモンが多すぎても少なすぎても、体のあちこちに支障をきたすのです」(吉原先生)

 

では甲状腺機能亢進症(以下・亢進症)になると、どんな症状が現れるのか。

 

「甲状腺ホルモンは、全身の代謝を活発にするので、これが多すぎると、イライラしやすくなったり、安静にしていてもスポーツをしたときのように脈が速くなったり、筋力が低下したりすることもあります」(吉原さん)

 

亢進症の代表的な病気が、歌手の絢香さんもかかったバセドウ病だ。

 

「バセドウ病になると、首の周囲やまぶたが腫れたり、目が突き出たりする人もいます。また、年配の女性がバセドウ病になった場合、骨細胞の代謝の速さに骨の生成が追いつかず、骨粗しょう症になってしまうことも」(吉原先生)

 

甲状腺ホルモンの働きが低下することで起こる甲状腺機能低下症(以下・低下症)には次のような特徴がある。

 

「甲状腺に慢性の炎症が起こることでホルモンの働きが低下し、代謝も悪くなります。低下症の代表的な病気といえば橋本病ですが、首の腫れのほか、体のだるさ、寒気、意欲の低下など、更年期に似た症状も出ます。脳の働きも低下し、物忘れが増えたり、認知症を疑うような症状が出ることもあります」(吉原先生)

 

実際に、認知症だと思っていた高齢者が、橋本病の治療をしたら回復したというケースもあるという。

 

「常に首の前面の腫れがある場合はすぐに病院で診断してもらったほうがいいでしょう。また、首が腫れない方もいるので、首の腫れのほか、体のだるさ、寒気、意欲の低下などの症状が長引いたら、甲状腺の検査を受けてみましょう」(吉原先生)

 

バセドウ病も橋本病も薬で甲状腺ホルモンの値が正常に戻れば、体の不調は好転する。しかし、薬の服用をやめると、また数値が悪化することも少なくないため、定期的に通院し、経過観察する必要があるという。女性に多く、一度かかると治療が長引くことが多い甲状腺機能障害。予防法はないのだろうか。

 

「甲状腺機能障害になる原因がはっきりわかっていないので、予防は難しいのですが、ストレスは避けたほうがいいということは言えますね」

 

そう話すのは、「3・11甲状腺がん子ども基金」の顧問も務める内科医の牛山元美先生。

 

「甲状腺は脳の視床下部と、その下にある下垂体から指令を受けて、甲状腺ホルモンを分泌します。視床下部も下垂体もストレスの影響を受けやすいので、心配事があると、うまく指令が伝わらず甲状腺ホルモンの分泌に異常が出るのです」(牛山先生)

 

牛山先生は、“甲状腺疾患を予防”ストレスを軽減する呼吸法とストレッチを紹介している。

 

■呼吸法

 

(1)椅子でも、あぐらでもいいので、背骨をまっすぐ伸ばすことを意識して、ラクな姿勢で座る。手のひらを上にして手はひざの上に。

(2)手のひらに意識を向け、手のひらでも呼吸をするような感覚で、ゆっくり深呼吸する。息を吐いたときに手のひらに温かさを感じるように、温かさを意識すると頭で余計なことを考えなくなり、体に意識を集中できる。

(3)背骨の上から下まで順番に意識しながら、ひとつひとつの骨で呼吸する感じで、ゆったり深呼吸する。2と3を1日最低5分行う。時間がないときは、2の深呼吸だけでもOK。朝晩や、疲れたなと感じたときなどに行う。

 

■ストレッチ

 

(1)腕を肩の高さで横に広げ、手のひらを上に向け、ぐっと後ろにそらせる。

(2)1の姿勢のまま、息を吐くときに肋骨を開くイメージで3回ほど深呼吸。

(3)同様の動きを3〜4回繰り返す。朝晩や、疲れたと感じたときなどに行う。

※電車やオフィスの中で行うときは、腕を肩まで上げなくてもよい。手のひらをぐっと後ろにそらせることを意識する。

 

甲状腺の疾患は、いったんかかると、さまざまな体の不調を引き起こす。この呼吸法とストレッチを実践して、リスクを最小限に抑えよう。

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