《ネットで見た歯科クリニックでインプラントを契約。抜歯し土台を入れて5カ月が経過したが、炎症が治まらず、抗生物質をずっと服用し不快な日々が続き、精神的にも参ってしまった。治療の見通しが立たず担当医師との信頼関係も持てなくなった。大学病院でのセカンドオピニオンでは『土台からやり直したほうがいい』と言われた》(50代女性)
《上左側の歯1本をインプラント治療。元歯の抜歯など手術を2回した数日後に大量出血。『手術が原因で歯茎が欠落しているが、修復可能』との担当医の言葉を信じ通院を続けたが、一向に治療は終わらず、3年たったいまでも仮歯のままだ》(60代女性)
これらの声は、全国消費者生活情報ネットワーク・システム(以下、PIO-NET)に寄せられた歯科インプラント治療の被害相談から抜粋したものだ。
歯科インプラント治療とは、歯がなくなったところの骨に人工物を埋め込み、その上に人工の歯をつくる治療法のこと。自費診療のために高額だが、治療数は年々増加傾向にあるという。
最新刊に『恐いインプラント』(光文社)があるジャーナリストの船瀬俊介さんが言う。
「インプラント治療はここ10年間で約2倍という急増ぶりです。’11年の厚生労働省の調査の時点で、当時全国に6万8,156軒あった歯科クリニックのうちの約17%にあたる1万1,311軒でインプラント治療が行われていました」
トラブルの数も増え、前出のPIO-NETには’06~’11年の5年間で343件の被害の声が寄せられた。そのうち8割が女性のものだった。
「同被害者アンケートによれば、治療費は約7割が50万円以上。不快感など身体症状の継続期間が1カ月以上続いた人が約75%ということでした。しかも、高額な医療費が戻ってくることはほとんどありません。そればかりか、治療や再手術のために、さらにお金がかかるという例も珍しくないのです」
なぜ被害が起きているのだろうか。
「人口が減少しているにもかかわらず歯科医院の数は増加し、今やコンビニの数より多くなっている。そのため、歯科医は生き残りに必死なのです」
今年発表された厚労省の最新調査では、歯科診療所の総数は6万8,791軒まで増加している。
「インプラントは治療費を自由に決められるので、多くの歯科医が手を出したがります。数多くあるインプラントの学会が独自の講習会を行い、短ければわずか5時間ほどの研修で独自の『認定証』を発行し“デビュー”させています。インプラント専門医を名乗っていても、未熟な歯科医が多くいます」
今回の告発をきっかけに、歯科業界に「被害の深刻さと向き合ってほしい」と船瀬さんは訴える。
「インプラントの危険性に対して歯科医は無頓着すぎます。東京歯科大学のようにインプラント治療の実習を取り入れるなどして技術の向上を図ってほしい。また、利益優先の安易な勧誘や治療はすぐにやめてほしいのです」