現代人の大きな問題となっている日々のストレス。さまざまな心身のトラブルの原因を食事から防ぐヒントを、アンチエイジング医療のスペシャリストに聞きましたーー。
「ストレスを受けると、私たちの心身や行動にさまざまな影響が見え始め、悪化すると病気という形で現れます」
こう話すのは、お茶の水健康長寿クリニック院長の白澤卓二先生。現代ではストレスの種類は大きく分けて(1)物理的・化学的ストレス、(2)生物的ストレス、(3)心理的・社会的ストレスの3つがある。
(1)は季節の変わり目の寒暖差や気圧の変動、公害や騒音などの環境的なものと、食品添加物やたばこなどの化学的な影響を体が受けるもの、(2)はウイルスや細菌、花粉などが体内に入り込むことで受けるもの、(3)は人間関係における問題や通勤ラッシュなどの社会的なもの。こうした原因からストレスが積み重なると、私たちの健康を脅かすことになる。
「人間がストレスを受けると、脳から神経伝達物質のアドレナリンが分泌されます。このアドレナリンは、適度な緊張をもたらし、アスリートがパフォーマンスを上げたいときなどには重要な物質です。ところが、アドレナリンが出っぱなしになると、今度は体や細胞が疲弊し、緊張状態を解こうとコルチゾールという物質が大量に分泌されます。コルチゾールは傷を癒してくれる働きがあるのですが、一方で重要な細胞を壊してしまうこともあるのです」(白澤先生・以下同)
このコルチゾールに弱い細胞がリンパ球だ。リンパ球は私たちの体の中を常に巡っていて、ウイルスやがんといった変質した細胞を認識して攻撃・除去してくれている。変質した細胞は常に私たちの体の中で産生されているが、それでも健康でいられるのはリンパ球の“巡回警備”の働きがあるから。だが、ストレス状態が続くとこの能力が落ちる。そして、体がウイルスに侵されてカゼをひいたり、インフルエンザにかかったり、ひどい場合はがんのもととなる。
それでも、同じストレスを受けても、病気になる人とならない人がいる。それは、ストレスに強い人と弱い人がいるからだと白澤先生は説明する。
「リンパ球は血中の20%ほどを占めるのが標準ですが、個人差があり中には45%くらいある人もいます。こういう人はストレスにさらされて10%くらいリンパ球が減っても余力があってカゼをひいたりはしません。一方、もともと血中に15%くらいしかリンパ球がない人が10%減ってしまうとカゼをひく確率が一気に高まります。“ストレスに強くなる”ということは、ストレスに強い細胞、リンパ球をたくさん蓄えておくということなのです」
対策は、ストレスの原因となる要素を取り除いていくことがカギ。食事に配慮することも有効だそう。ストレスのダメージから体を守るためには何をたべるとよいのか、白澤先生に教えてもらった。
【米こうじ】
疲労回復や脳を活発にする働きがあるビタミンB群が豊富。30種類以上の酵素が栄養成分の消化吸収を促し、弱った胃腸の働きを助ける。さらに、オリゴ糖が腸内の善玉菌を増やして腸内環境を整え、免疫力をアップさせる。
【きのこ類】
βグルカンが白血球のマクロファージに働きかけて免疫力を上げるほか、アミノ酸のエルゴチオネインが細胞内に働いて抗酸化作用を発揮し、ストレスによるDNA損傷を食い止める。食物繊維、ビタミンB群も豊富な万能食材。
【きくいも】
水溶性食物繊維のイヌリンが野菜の中でずば抜けて豊富。大腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整えてくれる。うつ症状を緩和する働きがある亜鉛も含む。ビタミン、ミネラルなどの成分もあり、冬が旬の繁殖力が極めて強い野菜。
【ごぼう】
イヌリンが腸内環境を改善するほか、サポニンによる抗炎症作用、抗菌性も。マグネシウム、ビタミンB群・C・Eも含む。ポリフェノールのタンニンは免疫を調節する働きがあり、傷ついた細胞を修復するなどストレスから守ってくれる。
【キムチ】
胃酸に強い植物性乳酸菌が腸まで届き、腸内環境を整えることで免疫力がアップ。ビタミンB群、ビタミンCも多く疲労回復、抗酸化作用も。カプサイシンが代謝を促して抵抗力を上げ、タウリンが肝臓の解毒能力を上げる。
「いちばんのオススメは発酵食品です。特に米こうじ。米こうじから味噌や塩こうじなどができます。発酵食品に含まれる複数の微生物が、体の代謝を助けてくれます。ビタミン、ミネラルが豊富で栄養のバランスも非常によいので最高の免疫アップ食材と言えます。きのこの菌も免疫力をアップさせてくれます」
さらに、腸内環境を整えるために、腸内細菌のエサとなる食物繊維を取り入れたい。きくいもやごぼうに含まれる水溶性食物繊維のイヌリンには血糖値上昇を防ぐ働きもあり、最近注目度が高いという。こうした、さまざまな活力のもとになるものを食べるようにしよう。