厳しい残暑が続いたと思ったら、急激に朝晩冷え込んできたことで、この時季にはだるさやめまいなどの体調不良を訴える人が増加する。
「体調不良の元凶は、自律神経の乱れによる“冷え”です。これは、自律神経のリズムが乱れ、体温調節が機能しなくなることです。肌荒れ、アレルギー、更年期障害、慢性疲労、むくみ、不眠のほか病院に行くほどでもない体の不調を引き起こしますが、そのうち頭痛、肩こり、おなかの不調の3つは、もとをたどると冷えからくる血行の滞りが一因です。冬場は暖房が効きすぎる室内と外との体温調節に苦しみ、体はほてるのに、足先は冷える『冷えのぼせ』に苦しむ人が続出します。本格的な冬の到来の前に、冷え対策を講じておきましょう」
そうアドバイスするのは、東京有明医療大学の川嶋朗教授だ。“冷え”を放っておくと、血行が悪くなり低体温になる。すると代謝や免疫機能が低下し、細胞の働きが衰える。さらに内臓の機能が低下して、病気のリスクが高まってしまうことに。
「漢方医学では、冷えはさまざまな病気を引き起こす前兆として非常に重視されています。漢方医学のセルフケアの中で、高い効果が得られるお灸を、手軽にできるのが“ドライヤーお灸”です。夜、お風呂から出た後、ドライヤーで髪を乾かすついでに、冷えに効く足のツボに温風をあてるだけ。体をしっかりと温めてから布団に入れば、深い眠りにつくことができますよ」(川嶋教授・以下同)
川嶋教授が考案したドライヤーお灸は、コストがかからないうえ、1人で、手軽に、毎日続けられるといいことずくめ。冷えに悩む女性の患者さんに勧めたところ、「寝る前に冷たくなっていた足指が温まって翌朝までぐっすり眠れた」「部屋の床が冷たいのですぐに冷えてしまうのが悩みだったが、すぐに温め直せて便利」といった反響が寄せられたそうだ。
やり方は簡単。冷えに効く主要の4つのツボ「足三里」「百会」「三陰交」「湧泉」を指で探しあて、ドライヤーで温めるだけ。
【足三里】
胃腸の調子を整えるのに効果的なツボ。健康維持、体力増進、体温・免疫力アップに効果。空腹ではないのにおなかが鳴るときは胃が冷えて機能が低下している証拠。このツボを押してみよう。
見つけ方:むこうずねの骨を下側から指で探っていくと、ひざの皿から下にゴツゴツとしたふくらみがあり、そこから指2本分外側にある。反対の足も同様。
【百会】
体全体のバランスを調整し、痛みも和らげてくれる万能ツボ。ちょっとした体の不調であれば、ここを押すだけで改善することも多いという。健康増進、ストレス緩和の効果が期待できる。
見つけ方:頭の頂点のほぼ真ん中。左右の耳に親指をあてて両手で頭をかかえるようにしたとき、中指の先同士が合わさる場所。
【三陰交】
脾臓、胃経、肝経という重要な3つの経絡が関わっているツボで、1度に3つの経絡を刺激できる万能ツボと呼ばれている。体力の回復、女性の月経痛や更年期障害などの不調改善にも効く。
見つけ方:内くるぶしの突き出した骨から、指の幅3本分上に進むと、すねの骨があり、その後ろの少しくぼんだ場所。指で押すと鈍い痛みがある。反対の足も同様に。
【湧泉】
このツボを刺激すると元気が泉のように湧いてくることから名付けられた。胃経の出発点にあたり、老化によって起こる胃機能低下、虚脱感、疲労などを改善し、体力と気力を高めることができる。
見つけ方:足の裏側、親指と人さし指の付け根からのふくらみと、中指と薬指と小指の付け根からのふくらみが交わるあたりにある。反対の足も同様に。
■ドライヤーお灸のやり方
(1)ドライヤーの風を50〜60度の低温風に設定。
(2)吹き出し口を肌から10〜15センチ離れたところから風をあてる。
(3)「熱い!」と感じたら吹き出し口を肌から離す。
4カ所のツボを温めても5分程度だ。
「やけどを防ぐため、ツボにあてる時間は長くても1カ所1〜2分にとどめましょう。そして必ず自分でやること。人にやってもらうと熱さの加減がわからず、やけどの原因になってしまいます。服上からあててもいいのですが、肌の乾燥が特に気になるときや、けがなどで痛めたところが熱を持っているときはやめましょう」
寒さが厳しい季節になると、入浴で温まってもすぐに冷えてしまうという人も多い。そんなときこそ、入浴前にもドライヤーお灸をして、体の冷えをサッと取ってから、38〜40度のぬるめのお湯にゆっくりとつかるとよい。お風呂から出た後は、肌に保湿をしてから再びドライヤーお灸をする、といった順番だと、湯冷め知らずで体の芯から温めることができる。また、冷えに効くツボを指で数回押してからドライヤーをあてると、より効果が高まるそうだ。
毎日続ければ、代謝がアップして健康美にもつながる。これからの季節、ドライヤーお灸を入浴前後の習慣にして冷えを防ごう。