鳥のフンによる被害や、その相談件数が増加傾向にあるという。多くの害鳥獣駆除業者が加盟する日本鳥獣被害対策協会の専務理事・石橋慎示さんはこう話す。
「私たちは、企業や自治体の依頼で、工場や倉庫、公共施設などでの駆除や忌避対策の施工をしていますが、最近は一般の方からの相談が急増しています。この10年で3~4倍になったと感じています」
激増の原因として、石橋さんは次の2点を挙げる。
「1つは凝ったデザインのマンションや戸建てが増えたこと。そのため、建物の外周りに多くの凹凸部が設けられるようになった。2つ目は、後付けの太陽光パネルを設置する住居が増えたこと。結果、風雨が直接当たらない場所が増え、そこにハトなどの鳥が営巣するようになったと考えられます」
ベランダに干していた洗濯物を汚される、悪臭に悩まされるなどのいわゆる「フン害」。経験した読者も少なくないだろう。だが、そんな被害はまだまだかわいいものかもしれない。じつはハトなど鳥のフンが、恐ろしい健康被害を引き起こすこともあるという。
「ハトが群れをなしている大きなお寺のお坊さん、その3人に1人がオウム病を罹患している、などという噂もあります」(石橋さん)
これは本当のことだろうか?
「あながち、的外れな数字ではないでしょう」
こう話すのは、岐阜大学応用生物科学部共同獣医学科の福士秀人教授だ。
「昨今、オウム病の原因としてもっとも問題視されているのが野生のハトです。少し前の話ですが、駆除業者さんに協力してもらってある地域のハトを調査しました。結果、2~3割のハトのフンからオウム病の病原体であるクラミジアが検出された。その数字から考えても、神社仏閣等で大量にたまったフンの掃除などを日常的にしていたら、チリ状に舞い上がった埃=フンを吸い込んでオウム病に感染してしまう人が一定割合いても不思議ではありません」
発熱やせきなど、かぜやインフルエンザに似た症状が出るというオウム病。病原体であるクラミジアは、乾燥したフンの中でも1~2カ月は残存しているという。人に感染し、重症化すると肺炎を起こすことも。ときには病原体が脳に達し、意識障害につながることまである。福士教授によれば「20年ほど前までは、死に至るケースも年間1~2例あった」という。
’14年には神奈川県内の福祉施設で集団感染が起きている。
「同福祉施設では、換気扇の排気口にハトが営巣。強風の日にその換気扇を止め、ほかの換気扇を使い続けた結果、逆流した空気に乗って、チリ状に飛散したフンが屋内に入り込んだとみられている。結果、施設の職員、利用者など12人が感染してしまったのだ。鳥のフンが原因と思われる健康被害はオウム病だけではない。
「クリプトコックス症やヒストプラズマ症などが挙げられます。特にクリプトコックス症は厄介な病気で、軽症であれば皮膚炎程度ですが、免疫力が低下した人が感染し、重症化すると脳脊髄膜炎になって、死に至ることも」(福士教授)
まさか、ハトのフンが脳障害をもたらすとは……。
前出の石橋さんは「鳥からうつる吸血性のダニの被害も多かった」と話す。
「最近は雨戸そのものがない家もありますが、以前よくあったのが、雨戸の戸袋にムクドリやスズメが巣を作ってしまったケース。これらの鳥に寄生しているのがトリサシダニで、戸袋のある部屋に寝起きしている子供などが、ダニにかまれて強い痒みを伴う皮疹が出たり、アレルギー反応を起こすという事案が数多くありました」
いったいどう対処すればいいのだろうか。福士教授は「適正な距離を保つことが大切」と話す。
「原則として、鳥のフンに近づかないことです。もし、フンが堆積した場所の清掃をしなくてはならない場合、最初に軽く打ち水などをしてフンを湿らせ、飛散するのを防いだうえで、不織布のマスクと手袋を着用して臨んでください」
もしも鳥の巣を発見した場合には、ただちに自治体や専門業者に撤去を依頼すること。最後に福士教授はこう話し取材を締めくくった。
「20年ほど前に、呼吸器内科の医師たちが熱心に研究を重ねた結果、オウム病は抗生物質を用いる治療法も確立されました。診断さえしっかりつけば、きちんと治る病気ですし、健康な人であれば、そこまで重症化することもないはず。ですから、必要以上に怖がる必要はありません。ベランダなど家の周囲を小まめに片付けたり、防鳥ネットなどを活用して適正な距離を保ち、鳥との共存を図っていただきたい、そう願っています」