何げない習慣が認知症リスクと関係するのは、鼻ほじりだけではない。
「よく耳かきをする人は、耳あかを詰まらせているかもしれません。耳あかが鼓膜に付着したり、耳の穴から鼓膜までの外耳道を塞いだりすると聞こえにくくなり、その結果、認知症のリスクが高まる恐れがあるんです」
そう教えてくれるのは、名古屋大学耳鼻咽喉科の曾根三千彦先生。
外耳道は長さ3CMほどで、耳の穴付近の3分の1は、軟骨部で皮脂腺を持つ。奥は骨からできているため、皮膚が1mm以下と薄く、少しの刺激で傷つきやすく、傷みやすい部位だ。
「耳あかというのは、皮脂腺などから出た汗や皮脂などの分泌物と古くなって剝がれた皮膚が混じったもの。ですから、耳あかは外耳道の内側1cmほどの部分で作られ、耳の奥にはありません。
また、軟骨部には耳毛が生えていて、汚れが入らないように防いだり、新陳代謝を繰り返しながら、少しずつ外へ動かしたりして、耳あかを自然に体外に排出するような仕組みになっているんです」(曾根先生、以下同)
そこに綿棒などを突っ込むと、耳の手前にあった耳あかを奥に押し込んでしまう。
「厄介なのは、耳かきをする人ほど、大きな塊が奥に入ってしまい、外耳道をふさぐ『耳垢栓塞』になりやすいことなんです」
耳がこもっているような感じや、聞こえにくいなどの症状がある人は、耳あかが奥にたまっている可能性があるという。
「耳かきが習慣化している人や、“奥のほうまでやらないとスッキリしない”という人はやりすぎている場合が多いんです。
ちょっとした拍子に外耳道を傷つけて炎症を起こし、耳垂れが出てくるなど感染症を起こす『外耳炎』を引き起こしがちです」
さらに、“カビ”が生えることも。
「耳の中は、高温多湿になりやすくカビが生えやすい環境です。外耳炎が長引くと、カビによる感染で、強いかゆみや難聴を引き起こす『外耳道真菌症』になることもよくあります。
繁殖したカビが鼓膜を覆ったり、カビが皮膚に深く入り込んでしまったりすると、完治まで数カ月もかかるため、聴力が衰えたまま生活することになります」
恐ろしいのが、聴力が落ちてくると認知症のリスクが高まるというさまざまな研究結果だ。
米・ジョンズ・ホプキンズ大学の研究では、軽度の難聴でも認知症発症のリスクは健常者の2倍、中等度で3倍、重度難聴ではおよそ5倍に上がると発表している。
「ほかの研究結果でも、聴力が下がると、記憶力に深く関わる脳の『海馬』部分の容積が減少してくることがわかっています。
因果関係はまだ明らかではありませんが、聞き取る機能が衰えてくると、“聞く努力”をすることで、脳に負担がかかります。聞くことに脳を使うため、ほかの動作ができなくなったり、記憶力が低下したりして、認知症の一因になると考えられています」
認知症リスクを高めないためにも、耳鼻咽喉科を受診するのが望ましいと曾根先生。
「よく耳を触ってしまう、頻繁に耳かきをする人は、症状がなくても耳の中をチェックしてもらいましょう。奥に詰まった耳あかを取るだけでも聴力が改善します。
自宅でのケアは、週1回程度、細いベビー用の綿棒を軽く濡らし、耳の中1cm程度の壁を優しく拭き取るように掃除すれば十分です」
耳かきや鼻ほじりという認知症につながる何げない習慣に気を付けよう。