■飲み合わせに注意が必要な薬しか処方できなくなる
こうした皮膚疾患の薬は、湿疹や、じんましん、アトピー性皮膚炎の患者のみならず、抗がん剤の副作用で皮膚炎になった場合にも処方される。これほど負担が増えると、継続治療が困難になる患者が出てもおかしくない。
加えて懸念されるのが、もっとも大切な“薬の安全性”。
「当院の患者さんには、血圧や心臓の薬など、何種類も服用されている方が多数います。
そうなると、薬の“飲み合わせ”が問題になるのですが、除外されるリストには、じんましんに効くアレジオンやタリオンといった、複数の薬を服用している方にも処方できる安全性の高い薬が含まれているんです」
そうした薬が保険適用外になると、「飲み合わせに注意が必要な薬」しか処方できなくなるのだ。
かといって、薬局でアレジオンを購入すると、24日分で約2千円。OTC類似薬なら、3割負担でも100円程度の薬代ですむので、20倍の負担増だ。
当然、患者のなかには「保険適用の薬を処方してほしい」と要望する人もいるだろう。まさに、“薬の安全性”をとるか“お金”をとるか、究極の選択を迫られる。
にもかかわらず、OTC類似薬の保険外しによって、“医療費削減”も、達成できるか疑わしい。
「たとえば、『保険適用の薬を処方してほしい』という患者さんの要望に応じて、今回、除外リストに入っている水虫の外用薬ラミシールクリームに代わり、内服薬のラミシール錠を処方するとします」
ラミシール錠の薬価は、後発品で1カ月分約千400円(3割負担で約420円)。一方、外用薬ラミシールクリームの薬価は、後発品で1本10g約95円(3割負担で約30円)だ。
「ラミシールクリームの市販薬は1本約1千円なので、患者にとっては内服薬を処方されたほうが安くすみますが、国の医療費は、かえって高くついてしまうのです」
これでは、いったいなんのための保険外しなのか、わからない。
「薬が処方されないなら、受診しても意味がない」とあきらめて、自己判断で市販薬を購入する人が増えると、症状の悪化も懸念される。
今井さんのクリニックでは、先日も、こんなケースがあったという。
「市販のロキソニンテープを貼って腰痛をしのいでいたが、いっこうに治らない、と言って受診された患者さんがいました。患部がピリピリするとおっしゃるので診察したところ、その方は単なる腰痛ではなく、帯状疱疹でした」
帯状疱疹は、体内に潜伏していた水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化して発症する皮膚の病気。治療が遅れると、治ったあとも神経痛が残る可能性もある。ロキソニンテープでは治らず、早期に抗ウイルス剤を服用しなければならない。
それでも、薬が手に入ればよいが、今後は、薬不足に拍車がかかり、薬が手に入らない事態にも。
「ここ数年、価格の安い処方薬の品薄が常態化しています。OCT類似薬の一部が保険から外されることになると、外されていない類似薬に処方が集中し、処方薬の品薄に拍車がかかって、患者さんに適切な薬が届けられない事態に陥ります」
患者の自己負担が増大し、命の危険にまでさらされるOCT類似薬の保険外し。机上の空論ではなく、現場の声を聞くことが先決だろう。
画像ページ >【価格解説あり】“保険外し”が見込まれるOTC類似医薬品の一例(他2枚)
