《ステージ4のすい臓がんが寛解》『乳がん日記』の著者・夢野かつきさんが支えた友人の“46時間点滴”闘病記
画像を見る 「がんになっても元気な夢野さん(右)がいてくれて、すごく心強かった」と、山下さん(写真:本誌写真部)

 

■こんな三食昼寝付きって私の人生で一度もなかった

 

――まずがんと告知されると、費用面で「いくらかかるか?」と、払えるのか不安になりますよね。

 

夢野:普通は心配になりますよね。ただ私の場合は、なんとも幸いなことに、がんと診断されたらガーン(笑)と出るタイプの医療保険に掛け替えたばかりだったんです。

 

告知される2年くらい前だったかな。加入していた保険会社さんから、「古い保険だから見直しませんか」と提案されて。深く考えずに「そうですか、お願いしまーす」と即答して。最新のがん治療に対応した内容で、入院給付金もしっかりもらえました。

 

山下:私も偶然、(すい臓がんの告知をされる)1年前にがんの治療には手厚い医療保険に掛け替えたばかりで。お陰で入院・治療費もしっかり支払われたので、不幸中の幸いでした。

 

――お2人とも、いま元気にしている秘訣のひとつとして、「治療費の心配がなかった」ということもあったのでは。

 

山下:そうですね。でも、いま元気にしているのは、なんといってもお世話になった病院と主治医の先生のお陰。さらに運もあったし、薬物療法の進化や治療との相性や、環境などもあったと思います。

 

夢野:お互いに治療を受けた病院には恵まれたよね。

 

山下:私は家の近くの大学付属病院で初診から現在までトータルで診ていただけていて。そこでは検査から抗がん剤のための入院、手術まで、さまざまな科でお世話になり、それぞれの先生に「すべてお任せ」のスタンス。なので、途中から自分の病気について調べることをやめてしまったほどなんです。

 

夢野:話を聞いていると、山下さんのところは主治医の先生をはじめ、働く方々がとても優しいよね。

 

――2つめの秘訣は、医療者を信じて「お任せ」したこと?

 

山下:そうですね。「痛い」と訴えればすぐに鎮痛剤を。「吐き気がする」と言えば高価な吐き気止めも使っていただけた。

 

入院している間は「こんな三食昼寝付きって私の人生で一度もなかったんじゃないか!」って感謝しながら過ごしていました(笑)。

 

夢野:私たちはどちらも一人暮らしだから、ふだんは自炊して食後はお皿を洗わなければならないものね。掃除も洗濯もあるし。

 

山下:私のすい臓がんは肝臓に転移した形跡があったらしく、手術はできず、’16年10月から抗がん剤治療を始めたんです。体に合っていたのか、あまり苦しくなかったことも幸いで……。入院生活といっても、悲愴な感じは意外にもなかったです。寝ていても本を読んでいてもいいし、いま考えてみるとぜいたくな時間だったなぁ。

 

夢野:私も入院していたとき、病室のテレビにDVDデッキが付いていたから友人にレンタルしてもらって毎日映画が見られた。

 

山下:同室になった人と本の貸し借りをしたり。ふだんあまり読まないジャンルも読めました。

 

夢野:時間があるから長めのも読めるんだよね。

 

――元気でいる3つめの秘訣は闘病のなかでも楽しみを見つけられたことでしょうか。

 

すい臓がんステージIVというとデータでは5年生存率0.8%(国立がんセンター調べ/2012-2015診断症例数をもとに集計)と非常に予後が厳しいイメージがあります。

 

山下:いますい臓がんで闘病中の患者さんの状況を考えると、私だけが「助かってよかった!」という描き方にはしてほしくなかった。ただ、こうして元気にしている人間もいることを知ってほしい、という思いはありました。

 

ステージIVで公表されているデータは2015年までの数字で、2016年以降は生存率も向上していて、どんどん新薬も認可されているので、決して絶望的ではないんです。

 

夢野:山下さんの主治医の先生も、すい臓がんの治療は日進月歩。今後、生存率は向上すると言い切ってくださっているものね。

 

山下:私と同じがんに罹患しているユーチューバーさんがSNSで日常をアップしているのを「あんなに元気でいるはずない」と世間から疑問視されているのを見ると、公表されているデータによる誤解もあるのかもと思うんです。でも実際に頑張ってどうなるものでもなく、好条件が重なったこともあるけれど、治る人もいるんです。

 

夢野:そうそう。やはり山下さんの経験を必要としている人がいるに違いない! そう確信しています。それで、描くにあたり怖い描き方はしたくなかったのね。

 

山下:怖いことは何もなかったです。ただ46時間かかる抗がん剤は、自宅で生活しながらも自分で点滴バッグを管理しながら投与しなければならず。絶対に「こぼすな」という注意書きがあって。慣れるまでハラハラはしました。

 

夢野:そう。調べてみると、「劇薬」って書いてあって。

 

山下:抗がん剤を投与しながら友人たちと会食していて、「ここにあるの」とパッと見せると、友人たちにあぜんとされちゃいましたけど、私はそれくらいのんきな患者でした。友人たちは脱毛している私のために帽子を編んでくれたり。人の優しさが身に染みましたね。

 

それでも点滴治療は6カ月近くになったという。

 

さらにすい臓がんの薬物治療中に、山下さんの右胸に乳がんが発見されてしまったのだ。’17年3月に右胸の全摘手術、さらにすい臓がんは抗がん剤治療を経て、7月に摘出手術を受けた。

 

――常に前向きな山下さんですが、それでも「もういいかも」と諦めてしまいたくなるほど、つらいときもあったんですよね。

 

山下:そうですね。いちばんつらかったのは、がんが小さくなったタイミングですい臓がんの摘出をしたオペのあと。胆管炎になりかけて、あまりの激痛で、すべてが面倒くさくなって……。でも飛び降りようにも「この医療器具をぶら下げていたら、飛び降りられない」と。「死のうと思ってもなんの手立てもなかったよ」って後で妹に話したら「ばかじゃないの! そういうこと言う人は自殺しないよ!」って叱られました。本当に妹にはもう頭が上がりません。

 

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