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「手芸作品を販売する仕事を始めたときは、主人から『赤字だけは出さないようにね』と言われていました。私は、商品が売れて入金があったりすると、すぐにまた“新しい布”を買いに行っちゃうタイプなので(笑)。だから、その約束は結構ハードルが高かったんです」

 

そう言って、とてもよく通る弾んだ声で“在宅ワーク”の体験談を語りはじめたのは、フリーアナウンサーの寺田理恵子さん(56)。’80年代に“元祖アイドルアナ”として絶大な人気を博した寺田さんは、次女の子育てと介護の時期が重なった’10年ごろから在宅ワークをスタート。得意の手芸の腕を生かし、オリジナル作品を作ってはマーケットサイトに出展するようになった。

 

「小さなバッグやスモック、巾着といった“お子さんたちが使うもの”を製作していました。『働くお母さんの代理』ですから、すべて手縫いです。既製品と比べると多少不ぞろいなことはお許しくださいねとお伝えしながら(笑)」(寺田さん・以下同)

 

寺田さんが最初に出品したサイトは、会員制の「テトテ」(運営・GMOペパボ)。できあがった作品を自分で撮影し、価格を決めてサイト上の自分の店舗にアップする。それを欲しいという人からメッセージで注文が来るという仕組みだ。

 

取材当日も、繊細な刺しゅうやパッチワークの施されたお稽古バッグなど、いくつかの作品を持参して見せてくれた。それにしても、誰もが知っているようなキー局の元アナウンサーが、まさかこんなかわいらしい“副業”をしていたなんて……。

 

「はい、匿名でした。寺田理恵子という名前は伏せて、誰も知らないハンドルネームで挑戦してみました」

 

作品は大反響。小学生の子どもを持つお母さんたちからの注文が殺到した。

 

「たくさんの仕事を抱えていて、子どもに手作りバッグを作ってあげる時間が持てない、というお母さんもいらっしゃいますよね。なおかつ、学校指定のサイズやデザインがあって、そのとおりに作って持たせなければならなかったりして」

 

サイトの向こう、顔の見えないお母さんたちの「入学・入園までに素敵なモノをそろえたい」というわが子への思いは伝わってくる。できる限り応えようとするが、製作が追いつかなくなったことも。

 

「これ以上はお受けできないとお断りしたときは、本当に申し訳なくて……」

 

ご主人との「赤字を出さないように」との約束も守らなければならない。

 

「売り上げ以外にも悩むべきことが増えていきました。ふだんから、頭のなかで“気に入ってもらえるデザイン”を考えるようになって、プリント柄を使うなら著作権にも配慮。端切れを出さない裁断方法など“効率よく作る”方法もたくさん発明して……。大変でしたが、これが意外と楽しいんですよ」

 

とはいえ、頑張った月でも利益は2万~3万円程度。時給で換算するといくらだろう? と思うときもあったとか。

 

「それでも、お母さんたちから『助かります!』と感謝のメッセージが届いたり『(子どもが)とても気に入って長く使っていましたが、高学年になるのでまた新しいモノを』とリクエストが来たりすると、感激です。そうやって作品が評価されることが、いちばんの喜びでしたね」

 

そう目を輝かせる寺田さんだが、夫が’12年に急逝し、次女も少し手が離れた’14年10月に『生島ヒロシのサタデー・一直線』(TBSラジオ)でアナウンサー業に復帰。そして、刺しゅうの師範資格の取得を目指すかたわら、’17年からは、実家を改装したコミュニティサロンで、子育てや趣味を広げるワークショップを開催している。

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