隔週連載〈中山秀征の語り合いたい人〉、今回は乙武洋匡氏(38)。’07年から3年間、杉並区の小学校教諭として勤務し、現在は東京都教育委員を務める乙武さんの熱い思いを聞き出した。
乙武「僕が教育現場に行って感じたのが、学校は9割が杞憂(きゆう)、取り越し苦労や無駄な心配でできているということ。理科で植えたインゲンマメを収穫して食べるというときに、『学校で給食以外の食べ物を食べさせて、万が一おなかを壊してしまったら問題になる』とストップがかかったんです。インゲンマメは持ち帰らせたのですが、おなかを壊す可能性を学校から家庭に先送りしただけ。僕はバカバカしいなと思ったのですが、数えあげたらキリがないくらい学校はそういうことだらけなんですよ」
中山「みんなで育てたインゲンマメを収穫して食べた、という思い出が大切なんですけどね。しかもおなか壊すほど食べないでしょう(笑)。一房でいいんですけどね」
乙武「だからといって僕は学校を批判したいのではなく、クレームやバッシングを浴びせてくる保護者やマスコミの目があるから、なるべくリスクがないようにと学校が守りに入って、不幸な悪循環に陥ってしまっているんです。そこでいちばん損しているのは子どもたち」
中山「そうですよね。僕は、子どもが失敗やけがを通して困難を乗り越える力をつけることが大事だと思ってるんです」
乙武「その通りです。バレンタインのとき、年輩の先生から『チョコレートを持ってこさせないように徹底してください』と真顔で言われたことがあったんですよ。理由は『もらえない子が傷つくから』。僕は傷ついたらいいと思っているんです(笑)。正直、小学生なんて顔がいいかサッカーがうまい子以外はモテないんですよ。バレンタインに『俺、モテないんだ』って気づいて、そこで子どもは初めてどうしたらいいかを試行錯誤する。大人が『モテるとかモテないとかそんな差はないから、みんな仲よし』とうそをつくほうが、よっぽど冷たい無責任な教育だと思うんです」
中山「『ちくしょう、俺だってモテるようになってやる!』でいいんですよね(笑)」
乙武「子どもが普通に生活していく中で、自然と傷つき挫折するような場面を奪ってしまうのは絶対ダメなことだと思うんです。僕が怖さを感じたのは、子どもたち自身も勝負を避ける傾向にあること。悔しさや負けから学ぶことっていっぱいあると思うんですけど、はなから勝負をしない。『俺は本気を出してないだけで、やる気になれば余裕なんだ』というふりをしたがる子が増えていると思うんですよ」