昨今、お茶の間でワイワイしながら視聴できる番組が減っている。そんななか、1月13日放送の『NHKスペシャル 世界初撮影!深海の超巨大イカ』は、16.8%という高視聴率を記録した。深海に生息する未知の生き物の映像が、日本中の家庭に興奮をもたらしたのだ。

 

そのウラには10年にも及ぶ、あまりに地道な作業があった。’02年、国立科学博物館の窪寺恒己先生に誘われ、小笠原でダイオウイカの取材を始めた小山靖弘ディレクター(42)はこう話す。

 

「初めから10年と決まっていたわけではなくて、なかなかいい画像が撮れないので、気づいたら10年かかってしまいました(笑)。撮影できる自信なんて、これっぽっちもありませんでした」

 

『NHKスペシャル』には、受け継がれてきた伝統がある。「常に挑戦する」という精神だ。一見、平凡なスローガンのように思えるが、失敗しても失敗してもくじけることなくトライし続けることほど、難しいことはない。だが、小山ディレクターは、こともなげにこう口にする。

 

「簡単に結果が出ないのは覚悟していたので、地道に、でも精いっぱいやっていました。情報を集め、仮説を立てて、検証する。その積み重ねでしたね。10年も小笠原に通っているうちに、いろいろな人と顔見知りになって、頻繁にダイオウイカに関する電話がかかってくるようになったんですね。そのデータを整理し、『こういう条件のときに取り組むといいのでは』と可能性を最大限に高めていった結果、最終的にうまくいきました」

 

’04年のロケ開始以来、小型深海カメラで520回もトライ。深海映像とはほかのロケ素材を合わせると800時間を超え、昨年夏に潜水艇を導入すると、夏だけで映像素材は1,200時間ほどに増したという。

 

テレビ離れが叫ばれるなかで、家族みんなで見られて、意見を交わせる。『NHKスペシャル』は貴重な番組だ。岩崎弘倫エグゼクティブ・プロデューサー(52)は力強くこう語る。

 

「ダイオウイカのような未知の生物を探し続けることは非常に意味があると考えています。撮れるかわからないので、リスクは大きいですが、それでも挑戦して、誰も見たことのないものを提供する。これが、テレビの原点だと思っています」

関連カテゴリー: