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女性が夫に先立たれ1人になり資産管理も一手に引き受けるとき……。老後に周りともめないためにいまからできる備えを、家族論と家計の専門家が語り合った。

 

作家の下重暁子さん(82)と経済ジャーナリストの荻原博子さん(64)。それぞれ『極上の孤独』と『老前破産』など生き方の指針となる著書も多い。夫が亡くなった後、もっとも家族間トラブルの原因となるのが遺産相続だ。

 

下重「両親が亡くなったときにうちがきょうだい間でもめなかったのは、公正証書として遺言を残しておいてくれたからです。両親の死後、当初、実家は地方から出てきた知人のご子息に、光熱費など最低限の必要経費だけで貸していました。家も傷まない、空き家問題も解決、若い人の支援にもなるから“一石三鳥”。その後、実家が売れて、執筆のための軽井沢の山荘を購入することができました」

 

荻原「下重さんのように相続でもめないというのは、まさにレアケース。もめるのは金額の多い少ないじゃないんですね。現に家庭裁判所で、遺産で争っているケースの3割が1,000万円以下です」

 

下重「私の知人も母親が亡くなったとき、実家の土地家屋を4人きょうだいで4等分して終わるはずが、いちばん下の妹の夫が『貯金もあったはず』と言い出した。裁判はもめて不愉快な2年の歳月を過ごした揚げ句、いまは仲のよかったきょうだいが絶縁状態だそうです」

 

荻原「うちは去年、父親が亡くなりましたが、ずっと弟が両親のそばにいて、いまも母親の面倒を見てくれていますから、私はすぐに相続放棄しました。親としては財産を残さないか、もし残すなら、何を、誰に、どのくらい託すかまで、きっちり遺言を書くかのどちらかですね」

 

下重「私は常々、『親は子どもに財産は残さず、使い切ってしまうのがいい』と言っています。子どもにも小さなころから、『自分の生活は自分でおやりなさい』と、はっきり伝えておくべきです」

 

荻原「私もわが子には、お金より、生きる力を残すほうが大切だと思います。そもそも子どもは別人格で、親とは違う人生があるのですから。生きる力をつけさせる方法は、とてもシンプルで、いろいろ言わないこと。割り切れば、さっぱりしますよ。うちなんて子どもが朝帰りしても、何も言わない(笑)」

 

財産を残さないことが、結局は子どものためにもなるのだと、2人は口をそろえた。下重さんは1人になった老後も安心できる「生前整理5カ条」として、次を挙げる。

 

【1】借金は定年後まで残さない
【2】財産は自分たちで使い切ると、子どもたちに伝える
【3】なんでも捨てないで、大事なものは修繕して長く使う
【4】自分の資産を託せる信頼できる人を見つけておく
【5】空き家はタダで貸しても人に住んでもらう

 

続いて、子どものいない下重さんならではの遺言状の作り方が語られた。

 

下重「子どもがいなくて、遺言もなく、夫婦どちらも亡くなった場合、つまり相続人のいない遺産は国庫に収められると知りました。それは嫌ですし、残った親族間のトラブルの種を作るのも申し訳ない。ですからうちは、どちらかが先に逝った場合、互いに全権譲渡するという内容の公正証書を作りました。私たち夫婦は一緒の旅行も多く、飛行機事故で同時に亡くなることもありえるわけです。そんなわけで、お互い自分たちの財産を預ける人を想定していました。つれあいと話してみたら、同じ方だったんです。血縁もなく、弁護士など専門家でもない信頼できる社会人の女性です。彼女には了解を取ったうえで、どのような寄付をしてほしいかまで、すべてを託しています」

経済ジャーナリスト

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