“老後2,000万円問題”を機に年金制度に注目が集まっている裏で、じつは介護保険制度の“改悪”が検討されている。’21年から負担が倍になる可能性もある改悪の中身とは――。
「介護保険制度がスタートしてからまもなく20年になります。現在、制度改正に向けた審議会が行われていますが、利用者の自己負担増となるような改悪プランが検討されているのです」
そう懸念を示すのは淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授。’21年4月に施行される介護保険制度の改正にむけ、8月29日に厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会で議論が始まった。3年に1度、制度を見直している審議会は、年内までに議論をまとめ、その結果を受け、来年の通常国会で法案が審議される。どんな改悪プランが検討されているのか――。
「介護保険制度が始まった当初、要介護認定された高齢者が介護サービスを利用する場合、年収に関係なく、自己負担は1割でした。ところが’15年には280万円以上の年収のある人が2割負担とされ、昨年には年収340万円以上の人が3割の負担とされました。今回の審議会では、2割負担や3割負担の対象者を増やすことが議論されています。とくに2割負担については、厚生年金受給者の平均年収でもある年収190万円以上ある人を対象にする案が具体的に出ています」(結城教授・以下同)
所得の基準を下げることで、国民の負担を重くし、国庫の負担を軽くしようという魂胆だ。
さらに、比較的軽度な要介護1と2の人を、介護サービスの“対象外”にすることも論点になっているという。
「通所介護と訪問介護が、要介護1と2に人が利用する介護サービスの3割を占めています。現在、介護保険において行っているこれらのサービスを、各自治体がボランティアを中心として行っている総合事業に任せようとしているのです」
各自治体の裁量に任せられた「総合事業」。介護サービスよりも利用者の自己負担額は安く抑えられるというが……。
「’15年の介護制度の改正で、要介護より軽度な要支援1と2が、総合事業に移行しました。ところが、介護のプロではないため利用者が満足なサービスが受けられないケースが続出。ボランティアの人材も不足しており総合事業制度そのものが破綻している状況なんです。とても要介護1、2の受け皿にはなりえません。しかも、洗濯や買い物などの家事は専門職でなくてもできるかもしれませんが、認知症の人に受け入れられ、介助をするとなると、専門的な知識をもった介護職員でないと難しいのです」
さらに、介護保険の第2号被保険者として40~64歳が毎月支払っている介護保険料(年間平均3万3,600円)を、若い世代にも払わせることも検討されている。
「たとえば、30歳以上から介護保険料を徴収するということも審議される可能性があります。しかし、まだ年齢的に介護が遠く、目の前の生活に手いっぱいの30代から、介護のためと月3,000円も徴収したとしたら、高齢者に対しての悪感情を作ってしまうかもしれません」