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今、エンタメの世界では『鬼滅の刃』が社会現象を巻き起こしている。コミックはシリーズ累計4,000万部を突破、アニメも人気の作品で、家族4世代にわたって楽しめることから「朝ドラのようだ」とも評される。

 

物語は、鬼に家族をみな殺しにされた少年が、唯一、生き残りながら、鬼にされた妹を人間に戻すため“鬼狩り”の道を進みながら成長していく、というもの。

 

「しかしそれが“正義 vs. 悪”という勧善懲悪の構図ではなく、悪=鬼にも悲しい理由があり、悪側にも気持ちを寄せているのが、この作品の特徴なのです」

 

爆発的人気の理由をこう解説するのは、日経BP総研の上席研究員を務める品田英雄さんだ。『鬼滅の刃』が誕生し、ヒットしたのは、閉塞感やストレスを感じやすいこの時代だからこそ、と品田さんは分析する。

 

「ここ10年、つまり、スマホの広がりと表裏一体ですよね。集団の多数派が少数派に対して、意見を合わせるよう圧力をかけてくる。仲間内で違う意見をもっていると、いじめの対象にされやすい。企業でも、コンプライアンスやルールの厳守を強く求められる。息苦しい時代です。その反動で“否定しない”ものを強く求めるのは、心理的に当然のことではないでしょうか」

 

加えて、「エンタメは、人の気持ちを少しだけ先取りした世界」と品田さん。フィクションだけでなく、視聴者の心に響いた次の事例にも、きちんとその傾向が表れているのだという。

 

ひとつが、中居正広(47)のジャニーズ事務所退所会見だ。

 

「これまでの大きな組織から外れて、会見も司会もすべて個人で責任を負うという形でした。どんな質問にもNGを設けず、一度すべてを受け入れて、けっして否定しない。会場は温かな空気に包まれ、応答の内容も中居さんらしさがよく伝わるもので、視聴者からも絶賛されました」

 

そしてもうひとつが、’19年の「M-1グランプリ」で3位に入賞した、ぺこぱの漫才だ。

 

「漫才というと、ツッコミがボケを否定して笑いが生まれる、というのがセオリーです。絶対的ともいわれるダウンタウンが登場してから30年、人は次なるものを求めていたのかもしれませんね。そこに登場した彼らの漫才は、ボケ担当がどんなにボケても、『悪くないだろう』『それもある』と、否定をしません。ボケがスベッたときでさえ、『時を戻そう』と笑いにもっていく、全肯定のスタイルが視聴者の心をつかみました」

 

ぺこぱの漫才は、じつは“意識高い系”の自己啓発、ポジティブシンキングと同じことを言っているのだそう。

 

「現実では鼻につくようなことを、新しい笑いに変えたのが、ぺこぱのすごいところ。ギスギスした時代に、気持ちよく笑わせてくれる貴重な存在です」

 

くしくも、在宅時間の長くなるこの時期。“否定しない”エンタメ作品に触れ、笑い、泣き、感動し、自分も他人も否定することなく、健やかに毎日を過ごそう。

 

「女性自身」2020年4月28日号 掲載

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