「残すものは何もないから、わが家に限って相続争いなんか起きるはずがない」。そう思っていても、意外と基礎控除額を超えた金額が相続分として残ることが。今すぐ財産を洗い出して賢く節税をーー!
「生前贈与ができなくなる!?」「相続税の節税ができない!」
富裕層の間でそんな噂が飛び交っている。事の発端は’20年12月の税制改正大綱だ。「相続税と贈与税を一体的に課税する観点から課税方法を見直す」との記載が、さまざまな臆測を呼んでいる。
「相続なんて、庶民には関係ない」
そう思う人が多いだろう。だが、相続専門の税理士、橘慶太さんはこう警告する。
「法改正があっても、富裕層は相続税が多少増える程度です。万全の準備も行うでしょう。しかし、もっとも大きな影響を受けるのは、相続税の対象ラインぎりぎりの方です。改正前なら相続税と無縁でいられたのに、改正後は相続税を払う立場になることもあるでしょう。相続税は、子どもたちに大きな負担を残します。’16年の相続税法改正以来、相続税の対象者は増えています。都市部の地価の高い地域に持ち家のある方は注意が必要です」
■相続税の計算の仕方は? 今のうちに考える
庶民にこそ影響の大きい税制改正のゆくえを、Aさんの例をもとに解説してもらおう。
夫と死別したAさんの財産は次のとおり。地価が高騰し自宅は3,000万円相当だが、子どもに負担をかけないよう節約に励むAさんの生活は、庶民そのものだ。
【Aさん(72)の場合】
子ども:2人
Aさんの財産:土地・家屋3,000万円、預貯金1,500万円。計4,500万円
相続税基礎控除額:3,000万円+600万円×2人=4,200万円
相続税対象額:4,500万円−4,200万円=300万円
「Aさんのような方が、いちばん危険です」(橘先生・以下同)
相続税は3,000万円+(600万円×相続人数)が基礎控除で、これを上まわれば課税される。Aさんの場合、相続人は2人だから基礎控除は4,200万円。相続財産は全部で4,500万円。もし今亡くなると、300万円が相続税の対象だ。
「相続税は死後10カ月以内に、申告手続きと原則現金での納税を終えなければなりません。ですが基礎控除額を超えなければ、申告も納税もいっさい不要。残された子どもたちの負担は雲泥の差です」
相続税を回避できる対策は?
「今なら、『生前贈与』を行えば相続財産を減らせます」
生前贈与とは、生きている個人が財産を贈ること。親から子への贈与でも、もらう側の子に贈与税が発生する。課税方法は2種類だ。
1つ目は「暦年課税」。1年ごとにもらった財産に対して、毎年贈与税を納める。ただし年間110万円の基礎控除があり、110万円以下なら申告も納税も必要ない。
2つ目は「相続時精算課税」だ。通算2500万円までの贈与には贈与税がかからないが、贈与者が亡くなったときは、それまでに贈与された財産と相続財産とを合算して相続税を算出し、納税する。
贈与税はどちらかを選ぶのだが、Aさんのようなケースでは、暦年課税を選ぶのが一般的だ。
そのうえで、110万円の基礎控除内、たとえば100万円の贈与を2人の子どもに2年間行えば、相続財産を400万円減らすことができ、相続税の対象から外れる。もっと相続財産の多い人は、次の節税策も活用できる。
【暦年贈与】
非課税枠:年110万円
注意点:贈与者の死から3年以内は相続税対象に
【教育資金の一括贈与】
非課税枠:1,500万円
注意点:’23年3月末まで
【住宅取得資金の贈与】
非課税枠:省エネ住宅1,500万円、一般住宅1,000万円(※住宅の取得時期により、非課税枠が異なる)
注意点:’21年12月末まで
【結婚・子育て資金の贈与】
非課税枠:1,000万円
注意点:’23年3月末まで
【扶養義務者間での生活費や冠婚葬祭での祝い金等】
非課税枠:制限なし
注意点:その都度、必要な金額を社会通念上妥当な範囲で