4月ぶんから年金増額も…「価値は激減している」と専門家
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■あの手、この手で年金を減らそうとする

 

しかし、長引く不況で物価や賃金の上昇が伸び悩んだため、政府の思惑に反して、マクロ経済スライドはほとんどの年で発動されなかった。物価や賃金の上昇率が低かったり、マイナスだったりした場合は、マクロ経済スライドが発動されない仕組みになっているためだ。

 

「2018年の時点で、マクロ経済スライドが発動されたのは2015年の一度だけという状態でした。そこで、2018年に厚労省が新たに導入したのが、“使わずにあまった調整率を、キャリーオーバーできる”という、ロト6のような仕組みです。つまり、マクロ経済スライドが発動されなかった年の調整率は翌年以降に持ち越され、次に発動するタイミングで、一気に引かれることになったのです」

 

その後、2019年、2020年にマクロ経済スライドが発動。そして今回、昨今から続く物価上昇や賃金上昇によって、3年ぶり4回目のマクロ経済スライド発動となったのだが、しっかりとキャリーオーバー分も引かれている。

 

「今年度のスライド調整率は0.3%と計算されています。さらにキャリーオーバーが2022年度で0.2%、2021年度で0.1%あるので、スライド調整率は合計0.6%ということになるのです」

 

その結果、67歳以下の人は名目賃金変動率の+2.8%から0.6%を差し引いた+2.2%、68歳以上の人の年金額は、物価変動率+2.5%から0.6%を差し引いた+1.9%で改定されることに。

 

「額面では増えるのでわかりにくいですが、年金受給額の増額は物価上昇よりも低く抑えられているので、じつは年金の価値は下がっています。実生活では気づきにくい形で年金を“値下げ”するという、姑息な制度です。しかし、最近の物価上昇は激しいので、今年はマクロ経済スライドの悪影響を実感する年になりそうです」

 

じつは、年金額改定で用いられる物価の変動率は昨年1月から12月の数値をもとに計算されている。たとえば、67歳以下の改定に用いられた名目賃金変動率(+2.8%)は、昨年1~12月の消費者物価指数(+2.5%)と、2~4年度前の実質賃金変動率(+0.3%)から導き出されたもの。今年1月の消費者物価指数の+4.3%は反映されていない。

 

つまり、マクロ経済スライドによる年金額の抑制と、今年に入ってからのさらなる物価の上昇が年金生活者を襲うことになる。

 

67歳以下の人の年金額は2.2%上がったものの、足元の物価の上昇率との差は2.1%まで広がっている。金額にすると、モデル世帯の厚生年金は月4553円、年間にして約5万4000円ぶんも価値が目減りしていることになる。

 

■減額は続く…年金は将来2割減る

 

「受給額が“減る”一方で、2024年には、国民年金の被保険者期間が20歳から65歳まで、厚生年金の被保険者期間が70歳までから75歳までと、保険料の支払いの負担が増える可能性があります」

 

マクロ経済スライドによる年金の減額はいつまで続くのか。

 

「厚労省は、現役の男性の平均手取り月給に対する、モデル世帯の年金額の割合、『所得代替率』を指標にしています。2019年の時点で、平均月給35万7000円に対して所得代替率は61・7%。これが将来的に50%になるとされています。現在の貨幣価値で計算すると、年金受給額は17万8500円。現行よりも2割も年金額が減ってしまう計算です」

 

厚生年金のモデル世帯は、平均的な収入の夫が40年間年金に加入し、妻が40年間専業主婦という比較的恵まれた世帯。多くの人の年金はもっと少ないものになる。

 

「自分で老後の備えを行う必要があります。減税効果のあるiDeCoに加入し、投資信託でインフレリスクにも対応する運用を行うなどの検討をするべきでしょう」

 

国があてにならない以上、自己防衛しか道はないのだ。

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