塩や砂糖、しょうゆなどと同じように一般家庭で広く使われているうま味調味料。農産物を原料としたグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などのうま味成分を水に溶けやすくした調味料で、素材の味を引き立てる効果があるとされている。
「うま味」とは甘味・酸味・塩味・苦味から成る5つの基本味の1つ。1908年に東京帝国大学の池田菊苗博士が、昆布だしの主成分がグルタミン酸であることを発見し「うま味」と名付けたという。
しかし、いまだに“うま味調味料は体に悪い”と考える人もいるようで、ネット上では論争が巻き起こることもしばしば。
最近では7月6日に“ホリエモン”こと実業家の堀江貴文氏(50)が、Twitterでうま味調味料を忌避するユーザーと応酬を交わし注目を集めていた。タイのバンコクを訪れた堀江氏は、現地のリーズナブルなレストランをTwitterで紹介。しかし、とあるユーザーから、《タイの食材で野菜は農薬たっぷり お店の料理は味の素たっぷり入ってるのでお気をつけください》との声が寄せられたのだ。
堀江氏は《農薬はともかくとして、味の素入ってたらなんかまずいんですか?》と反論したが、別のユーザーからは《味の素なんてやばい物質の塊でしょうに。 堀江さん位の有識者ならそれくらいは当然のごとく知ってると思ってました》との声も寄せられていた。
7日には料理研究家のリュウジ氏(37)も、レシピを参考にしているというユーザーから《味の素とレンジを使うやつは自然と代用してた。だって昔から毒だと有名だもん》《そういえばリュウジに前に質問したけど無視した?スポンサーなの? ひとごーろーし》と辛辣な声が。リュウジ氏は、《料理研究家、味の素を使っているだけで人殺し呼ばわりされてしまう 味の素否定派の皆様は過激な方々が多い印象ですが、流石にやりすぎでは…》と嘆いていた。
ちなみに「味の素」の公式サイトでは、原料や製法についてこう明記されている。
《「味の素®」の主な原材料は、グルタミン酸ナトリウムです。グルタミン酸ナトリウムの原料は、日本ではさとうきびです。さとうきびの糖蜜に発酵菌を入れて、醤油や味噌などを作る方法と同じ発酵法でグルタミン酸ナトリウムを作ります》
■うま味調味料がネガティブに捉えられた背景にある「中華料理店症候群」
うま味調味料を批判する人が後を絶たない背景には、1960年代に起こった「中華料理店症候群(チャイニーズレストランシンドローム)」が大きく影響しているという。
「当時、アメリカ人にとっては未知の成分であった『うま味=グルタミン酸ナトリウム(MSG)』が、中華料理店で食事をした人の健康被害の原因であると医学論文誌に発表されたことが発端です。これによって『うま味調味料は危険である』という間違った噂が一気に世界へ広まりました。その後、米食品医薬品局(FDA)などの研究により、チャイニーズレストランシンドロームとMSGの因果関係がないことは科学的に証明され、MSGの安全性に問題はないというのが定説となっています」
こう解説するのは、フードジャーナリストの山路力也氏(以下、カッコ内は山路氏)。
様々な医学研究によってうま味調味料の安全性が証明されているが、それでも悪いイメージが払拭できないのはネガティブなネーミングが広まったことも要因だという。1960年代半ばにNHKの料理番組で「味の素」が使用された際、一般名称として「化学調味料」と紹介されたため、「うま味調味料=化学調味料」の認識が広まったとされている。
しかし、正しい表現ではないことから、「日本うま味調味料協会」では《1985年以降うま味調味料の名称に変更されています。行政資料でも1993年改定の計量法で名称がうま味調味料に変更され、現在では各種法令、行政統計資料、記者ハンドブック等でもうま味調味料に統一されています》との見解を示している。
山路氏は「言葉のイメージによって振り回されている人は、少なからずいると思います」と前置きした上で、こう推察する。
「個人個人がインプットしている情報や知識量の差というのは大きいでしょう。うま味調味料に対して批判的な人は、『体に悪い』と刷り込まれた知識を上書きすることがなかなか難しいのかもしれません。使わないという人の大半は、『よくわからないけど、うま味調味料を使ってない方がよさそう』くらいの理由ではないでしょうか。うま味調味料がどう作られているのかを理解しているのかは疑問です」
「うま味調味料を使うメリット」とは、手軽に美味しい料理を作ることが挙げられるだろう。山路氏は“品質と価格のトレードオフ”を指摘する。
「料理において人間が満足するうま味の量を調味料で満たすのか、それとも天然素材で満たすのか。調味料が嫌なのであれば、昆布などの天然素材を使うしかありませんが、原価は当然高くなりますし出汁を取る手間もかかります。一から手間ひまかけて作っても、その料理の価格が高ければ食べてもらえないかもしれません。『手作りの料理が食べたいけれど高いものは嫌』『無添加で安いものを食べたい』というのは現実的ではありません」
人々の暮らしを手助けする企業努力。安易に批判をしないためにも知識のアップデートは必要だ。