■「産休クッキー」を不快に感じた人がSNSに批判コメントを書き込んでしまう心理
本来は感謝の気持ちを伝えるためのアイテムだが、なぜここまでSNSで炎上してしまうのか?そこで本誌は、産業カウンセラーの川村佳子さんに話を聞いた(以下、カッコ内は川村さん)。
「まず贈る側の気持ちとして、あえてイラストやメッセージが入ったクッキーを選ぶのには、そこに特別な気持ちがあるからではないでしょうか。特別な気持ちというのは、大前提としてお祝いをしてくれたことへの感謝の気持ちなのだと思います。
しかし同時に、『出産する私』という『自我』も感じます。例えば、結婚式の引き出物に、新郎新婦の顔写真やイニシャル入りの物を選ぶ心理と、似ているかもしれません。そこにも同じように、『結婚する私』という自我があるのだと思うのです。要するに、感謝の気持ちよりも、お祝いして欲しい気持ちが勝っているように感じます」
そうしたコミュニケーション方法にXでは好意的な声が多かったが、一部では不快に感じるという人も。なぜ、批判的に捉えられてしまったのだろうか?
「純粋に『元気な赤ちゃんを産んでね』で終わればよいのですが、批判する人にとっては何か“違和感”があるのだと思います。この違和感は個人によって違うと思いますが、先に述べたように贈る方の『自我』を感じて、モヤモヤしてしまうからだと思います。
そしてもう1つは、嫉妬心です。女性のなかには不妊治療を受けている人や、女性特有の疾患を抱えている人もいます。そういう方にとって産休クッキーは、非常に辛い贈り物です。また、産休や育休に入る同僚の代わりに仕事を任され、業務が増えて大変だと感じている人もいるでしょう。
ですが、だからといってそういう人たち全員がSNSで批判をしているわけではありません。わざわざSNSで批判してしまうのは、いずれにしても、自分に心のゆとりがなかったりするからではないかと感じました。
Xで『産休クッキー』の写真を投稿した人は、炎上してしまったために配った相手などの説明を余儀なくされていました。批判コメントを書き込んでいた人のなかには、“SNSが唯一自分の存在を出せる場所”だと捉えている人もいるでしょう。
SNSの普及に伴い、個人の表現が匿名で自由に活発に行われています。自分では投稿しないような内容を目にした違和感から、安全地帯が脅かされてしまったような気持ちになり、批判してしまったのかもしれません」
そもそも産休や育休は労働者の権利だが、休暇を取るにあたって職場に菓子を配る必要はあるのだろうか?休暇の取得者が気を遣う風潮がなくならないことについて、川村さんは職場環境の側面からこう指摘する。
「気軽に産休や育休を取得できることが当たり前な組織体制が理想的ですが、組織によってはまだまだ余裕がないところもあるでしょう。人材不足や産休や育休に対する理解が不足しているといった課題があり、そうすると休暇を取得する人は過剰な配慮をせざるを得ないのかもしれません。
また、日頃から職場での人間関係やコミュニケーションも関係してくると思います。互いをよく知っていて産休に入ることも話せるような間柄であれば、『産休クッキー』も喜ばれるでしょう。ですが同じ職場でも、相手がどのような仕事をしているかわからないような関係性の人から、急に渡されると驚いてしまうかもしれません。
産休や育休に寛容になれないのは個人の問題もありますが、風通しの良い人間関係と、余裕のある組織作りで職場環境を整えいくことも大切ではないでしょうか」