「亀屋良長」の女将・吉村由依子さん 傾いた老舗和菓子屋を立て直したヒット商品は「息子の朝食作りから生まれた」
画像を見る 夫の良和さんと。老舗を風通しのよい企業に変えていった(撮影:前川政明)

 

■伝統を守りつつ、新しい味を探し続ける

 

「生クリームの絞り口で作ったメレンゲの形、かわいいなあ。これで何か作りたいなあ」

 

「この寒天、口の中でトロッと水みたいに溶けていいなあ。ウチは水がウリやから」

 

店舗ビル5階にある製造部では、白い帽子と作業着、マスク姿の職人たちが商品製造や、新商品の開発を行っている。由依子さんも作業台で試作品を口にしながら、若手従業員と打ち合わせをする。

 

背中合わせになるかっこうで、良和さんが白やピンク、緑の白あんを使い、三角ベラという道具で花びらをこしらえながら、美しい菊のお菓子を仕上げていく。良和さんは、時折、後ろを向いて新商品の試作のアドバイスを由依子さんへ送っていた。

 

由依子さんの一日は目まぐるしい。店の上階に自宅があるため、子供を送り出した後、下に下りて、毎日、朝礼を行う。

 

「打ち合わせに出たり、パソコンでお客さまとのやり取りや問い合わせの対応、試作品の確認などに追われて、仕事が終わるのは夜の8時くらい。ビルから出ない生活で、1千歩も歩かない日があるから、なるべくエレベーターを使わず階段で移動しています」

 

夜型で、一人のほうが集中できるため、夕食後、再び階下に下りて仕事が片付くまで事務作業することも珍しくない。一日中、和菓子のことばかり考える由依子さんには、心に残っている言葉がある。

 

「山下さんには面と向かって褒めてもらえませんでした。でも、間接的に『訳わからんこと言うけど、なんか知らんけど売れるんや』と褒めてくれていたと聞いたときは、すごくうれしかったです」

 

あんこを作るように時間と手間を惜しまず、伝統と変化を未来につなげていく。なんとも幸せな気持ちにさせる甘いお菓子で、ほころぶ笑顔を見たいから──。

 

(取材・文:小野建史)

 

画像ページ >【写真あり】大ヒット商品になった「スライスようかん」(540円・税込)(他2枚)

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