「生活習慣が原因で、血糖値が高くなりすぎて下がらない2型糖尿病(以下・糖尿病)。戦後からずっと患者数が増え続け、’16年に初めて1,000万人の大台に乗りました。予備群を含めると、2,000万人以上になります。もはや誰もが糖尿病になりうる時代なのです」
そう語るのは、筑波大学医学医療系内分泌代謝・糖尿病内科の矢作直也准教授。40歳以上の女性、4人に1人が予備群以上といわれる糖尿病。症状がないまま進行し、発病すると完治は難しい。
「恐ろしいのが合併症です。人工透析が欠かせない腎不全や失明に至る網膜症、足の切断を迫られる壊疽、さらには動脈硬化も進み、心筋梗塞や脳梗塞など命にかかわる病気を引き起こすリスクが高くなります」
こう解説するのは糖尿病専門医でAGE牧田クリニックの牧田善二院長。糖尿病になる前の“糖尿病予備群”なら、しっかり予防すればまだ間に合う段階だという。そこで、糖尿病予防の最新常識を矢作先生と牧田先生が教えてくれた。
■日本人は糖尿病になりやすい
日本人は遺伝的にインスリンを分泌する能力が低い。
「簡単に糖質を摂取できる農耕民族の日本人は、ブドウ糖を体内に蓄える必要がなかったため、インスリンの分泌量が、欧米人の半分から4分の1程度しかありません。しかし、食生活の欧米化、生活習慣の乱れから、糖質の体内での蓄積量が増えたのに、インスリンの分泌量が不足。さらに効き目も低下したことで糖尿病患者が増加しました」(矢作先生)
■歯磨きでリスクが減る
日本人の7~8割にみられる「歯周病」。歯を失う原因になるだけでなく、糖尿病とも密接に関わっている。
「歯周病を放置すると、歯周病菌が血管内に入り込みます。それを撃退するために、免疫細胞の“マクロファージ”がインスリンの分泌を抑えたり働きを弱くしたりする物質(TNF-α)を作り出します。正しい歯磨きや歯科での歯垢除去が有効な予防法です」(牧田先生)
■ミルクファーストで血糖値を上げない
血糖値の急激な上昇は、すい臓に大きなダメージを与える。そのため、ごはんやパンなどではなく食物繊維が豊富な野菜を最初に食べる“べジファースト”が知られているが……。
「食事の前にヨーグルトや牛乳などの乳製品を口にすると、血糖値の上昇を30~40%抑えられます。これは、乳製品に含まれる乳清タンパク質が血糖値の上昇を抑える役目を果たしているからだと考えられています。とはいえ牛乳には糖質が多く含まれているので、1日の摂取量は100ml程度にしましょう」(牧田先生)
■人口甘味料にワナが
体重を気にする人も愛用する人口甘味料に、糖尿病のリスクがあるという。
「’15年には、人工甘味料を与えたマウスの血糖値が上がったという実験結果が発表されました。また健康な人が人口甘味料をとり続けることで腸内細菌のバランスが崩れ、インスリンがブドウ糖を処理する力が低下したという報告もあります。人口甘味料は糖尿病になるリスクがあると考えて摂取したほうがいいのです」(牧田先生)
■ストレスがリスクを上げる
人間関係や仕事などで抱えている人も多いストレス。糖尿病とは結びつきが強い。
「ストレスを感じると交感神経が活発になり、アドレナリンやコルチゾールなどの“ストレスホルモン”が分泌されます。このホルモンはインスリンの働きを抑える作用があります。とくに、ストレスが大きかったり、長時間続いたりすると“ストレスホルモン”が分泌され続け、すい臓に大きなダメージを与えます」(牧田先生)
予防の新常識で対策をして、予備群リスクを少しでも下げよう。