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「よく『冷えは万病のもと』といわれますが、それは決して抽象的な言葉ではありません。具体的な数字でいえば、日本人の死因の約9割近くは『低体温』が関係しているからです」

 

そう話すのは、「冷え」に詳しい芝大門いまづクリニックの今津嘉宏院長。

 

少し長くなるが、厚生労働省が発表している日本人の主な死因を見てみると、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患のおなじみ「三大死因」に続き、肺炎、老衰、不慮の事故、自殺、腎不全、肝疾患、糖尿病、慢性気管支炎、さらに肺気腫、交通事故、高血圧……と、どれをとっても読者世代には人ごとではないものばかり(『平成30年人口動態統計(概数)の概況』より)。

 

「そのうち、老衰と不慮の事故、自殺、交通事故、結核を除いた死因は、体温が高ければ防げるもので、その割合は、じつに全体の87.3%にのぼります」

 

つまり、日本人の死因のほとんどが冷えと関係していることになる。その関係性について、今津院長はこう解説する。

 

「病気の源流をたどっていくと、だいたい1つの原因に集約されていくものです。そして、その多くは高血圧や高血糖、高脂血症といった生活習慣病。たとえば、脳梗塞や心疾患、腎不全も、元をたどれば動脈硬化が進行した結果。そしてその動脈硬化の原因をさらにたどると、高血圧に行き着く、といえばわかりやすいでしょう。そこで、最近では『メタボリックシンドローム』ならぬ『メタボリックドミノ』と表現されることも増えています。これは動脈硬化のような大本の病気が、ドミノ倒しのように次々とほかの病気を引き起こすということ。しかし、冷えを改善し体温を上げることで、このドミノが倒れる前の『ついたて』の役割を果たしてくれるのです」

 

しかし、「体温」は長いあいだ西洋医学の世界ではその存在が見落とされてきた。

 

「明確な診断基準やガイドラインも存在しないため、冷えるのはその人の性質、つまり『冷え“性”』といわれていました。しかし、がんですら85%が治るような時代になり、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の薬も登場してきたことで、だんだんと『冷えも手当てするべき症状なのでは』と認識されるようになってきたのです。多くの病院でも漢方を取り入れるようになり、それに合わせるかのように『冷え“症”』という呼び方が広まってきました」

 

その漢方の世界では、昔から「冷えは病気」とされてきたという。

 

「漢方と聞くと中国の医学のようですが、実は江戸時代には日本独自の伝統医学として成立しており、中国の漢方においては古くから『冷え』は根本的な診断基準のひとつでした。それというのも、CTも血液検査もなかった時代は、いったいなんの病気なのかを、見た目や問診で判断する必要がありました。中医学ではその分野が300以上もありますが、日本の場合は『強いか弱いか』『寒いか熱いか』という、とてもシンプルな分類が主流でした。『寒』とはつまり『冷え』のことですので、『冷え』は古来、病気かどうかを診断する、基本的な指標だったといえます」

 

「寒」つまり「冷え症」がれっきとした病気の分野のひとつだとしても、「体のどこが冷えるか」は人それぞれ。

 

「いわゆる虚弱体質で“全身が冷える”人もいれば、“上半身はのぼせているのに、下半身だけは冷える”人もいます。ですので、ひと言で『冷え症』といっても、その原因と対策を見つけるためには、一人ひとりの症状をきちんと分類していく必要があります。ある寝具メーカーの行ったアンケート調査によれば、20代から60代までの女性の、実に96%が“足元の冷え”を自覚していたといいます。つまり現代の女性は、ほぼ全員が『冷え症』に該当するのです」

 

実際に、現代人の体温は、50年前と比べて0.7度低下している。

 

「なぜこれだけ多くの女性が冷えているかという理由は定かではありません。住環境や食生活に変化、スマホやパソコンの普及によるライフスタイルの変化……。さまざまな冷えの原因が考えられますが、患者さんの声を聞くなかで感じるのは、さまざまな“複合型”の冷えが増えてきているということです」

 

「足元が冷えている」のはもはや現代を生きる女性の宿命。それを踏まえて、今津先生に「冷え症」を3種類に大別してもらった。

 

まずは、「体全体が冷える人」。全身の筋肉量が少なく、熱そのものをつくる力が弱いタイプだそう。

 

「たとえるなら竹久夢二の絵のような“か弱い人”。当帰芍薬散という漢方薬が効果を発揮します。いっぽう、50代ぐらいの一見元気な女性に多いのは、『上半身はのぼせているのに下半身が冷えるという人』。こちらは血流の乱れが原因で、外見の特徴は“ふくよかなお母さん”タイプ。桂枝茯苓丸という薬が効くといわれています。最後は『手足などの末端だけが冷える人』。こちらは精神的なストレスからくる冷えが原因で、“キャリアウーマン”に多いといえるでしょう。漢方では『闘士型』と呼ばれ、加味逍遥散を処方します」

 

さらに、この3タイプに加えて、ピンポイントの冷えが起こる場合もあるというからご用心!

 

【首のうしろの冷え】

「ツボのひとつに、体内に風邪が入る場所と考えられている『風穴』があります。背骨と左右肩甲骨の間にありますが、実際に風邪のひきはじめなど首のうしろから背中がゾクゾクしますよね。ここが冷えるのは、感染症にかかりやすい兆候と考えられるでしょう」

 

【片半身の冷え】

「患者さんの中には体の片側だけ冷えるという方が少なくありません。一概に特定の病気とひもづけることはできませんが、リンパの流れが関係している可能性はあります。血液とは異なり、リンパは最終的に体の右側を通っていくため流れに左右差が出やすいのです。こうした患者さんにはマッサージを提案しています」

 

【特定の臓器の冷え】

「精神科の患者さんのなかには『心臓が冷える』など、特定の臓器の冷えを訴える方がいます。私は、これは大きなストレスがかかったときの『肝が冷えた』という感覚と似ているのではないかと考えています」

 

かように多岐にわたるのが「冷え症」という病気。診察の際には、なるべく具体的な症状を医師に話し、自分の「冷え」のタイプを見誤らないよう注意しよう。

 

「女性自身」2020年2月18日号 掲載

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