「脳は体の状態や動きから、自分の現状を判断します。体から『楽しい』という信号が脳に送られてくると、脳は『自分は楽しい、元気なんだ』と判断するのです。元気になるような行動をとれば、心も元気になる。上手に“脳を騙(だま)す”アクションをすることがストレス対策には大切なのです」
そう教えてくれたのは、明治大学教授で言語学者の堀田秀吾先生。心理学や脳科学でも、思考と行動では行動のほうが先に来ることが定説になってきているそう。すなわち、心が元気でないから体を動かせないのではなく、体を動かさないから心が元気になれない、と堀田先生は話す。脳を騙すためには、科学的に実証された裏付けのあるワザ“エビデンス有り”のテクニックが有効だという。
「特に朝は“ストレスホルモン”と呼ばれるコルチゾールの値が1日のうちもっとも高いことがわかっています。起床時に体がダルくて憂鬱な気分になるのは、高いストレス状態にあるため。1日を幸せに過ごすためには、朝からきちんとコルチゾールの値を下げて、不安や心配を取り除いておくことが肝心です」(堀田先生・以下同)
コロナ禍でどうしてもストレスはたまりがち。そんな多くの人が抱える悩みを改善するのに有効な“朝の過ごし方のコツ”を堀田先生に教わり、科学的に立証されたメカニズムも解説してもらった。
【1】背すじを伸ばす
被験者を、堂々とした姿勢、縮こまった姿勢のグループに分けてギャンブルをさせたところ、前者のグループはリスクの高い賭けに挑んだ。判断力、積極性、攻撃性、負けず嫌いに関する「テストステロン」というホルモンの増加が顕著だったという(※ハーバード大学 カディらの研究)。
スマホやPCばかりを見て姿勢が悪くなると、精神的にも無力感やストレスを抱きやすくなるなどの影響が。背すじを伸ばすと、ポジティブ思考になり、やる気が出るという。周囲からも好印象を得られるため、意識的に姿勢を正す準備を朝から始めておこう。
【2】小説を読む
86人の被験者に短編フィクションと短編ノンフィクションを読ませ、相手の表情から感情を読み取るテストをしたところ、フィクションを読んだ被験者のほうが正解率が高かった。大衆作品より純文学作品のほうが登場人物の考えや感情も理解でき、他者への共感力がアップ(ニュースクール大学 キッドとカスタノの研究)。
自分と相手の価値観のギャップから、ストレス要因となる人間関係の問題が生じがち。相手の価値観を受け入れる心のゆとりをもちたいところ。
「登場人物の状況や心理的背景がしっかり描かれた文学作品を読むと、相手の心を読み取る力、相手の価値観を認める力、相手の痛みがわかる力などが養われ、共感力も高まります」
【3】他人の幸せを考えてみる
496人の大学生が12分間大学構内を歩く際、すれ違う人に対して心の中で、(1)相手の幸せを願う、(2)自分との共通点を考える、(3)自分のほうが優れた点を考える、(4)服装や持ち物を考察する、の4つのグループに分け実験すると、(1)のグループが最も幸福度が高く、不安が減少した(※アイオワ州立大学 ジェンタイルらの研究)。
嫌いな人に対してひがみや恨みを募らせるより、好意的に思う人に対して幸せであってほしいと願うことで、自分も幸せになれるという。日ごろから他人の幸福を願うクセをつけておくと、ストレスも軽減していく。
【4】ネガティブな言葉を発しないようにする
ふだんから他人を貶めたり、批判するような言葉を発すると、認知症のリスクがじつに3倍高くなるという。ネガティブな言葉を発するだけで、脳は他者から嫌なことを言われたときと同等のダメージを受ける可能性も。意識的にポジティブな言葉を発するのがオススメ(※東フィンランド大学 ネウヴォネンらの研究)。
「後ろ向きな発言が日常化することは、認知症リスクも高めてしまいます。同時にネガティブ思考は注意力低下の原因にも。クセになっている人は早めに直すようにしましょう」
【5】かわいい写真を眺める
大学生約130人に、(1)子猫。子犬、(2)成長した猫・犬、(3)すしなどの食べ物の写真を見せながら、集中力を必要とする作業をさせたところ、(1)の写真を見たグループが通常時よりも作業効率がアップしたという(※広島大学 入戸野らの研究)。
子猫や子犬など、かわいいと感じる写真や動画を眺めると、「しっかり見よう」という気持ちが無意識に働き、その後の作業でも注意力や集中力が高まるという。疲れやイライラを感じたら、1分ほどかわいいものを愛でてみよう。
【6】コーヒーの香りをかぐ
コーヒー豆の香りには、睡眠不足や疲労の原因とされる活性酸素によって破壊された脳細胞を再生させる効果がある。マウスの実験でも、コーヒー豆の香りをかぐとストレスから脳を守る分子の量が部分的に回復。朝イチのコーヒーで脳細胞を活性化させ、集中力をアップ!(※ソウル大学 スーらの研究)
「疲労が回復し、脳細胞が活性化することがわかっています。そこから人に対して親切になり、幸福度が上がる相乗効果も」
朝の忙しい時間でも取り入れられそうな“チョイワザ”ばかりだ。
「肩に力を入れず、これならできそうと思った項目をとりあえず試していけばOKです。気に入ったものを継続して実践してください」
科学の力を借りて、今年はストレス知らずで過ごそう!
「女性自身」2021年2月2日号 掲載