「コロナ禍では、『人のいないところに出て、マスクを外して運動をしましょう』と訴えているのですが、やはりどうしても運動不足になりがちです。高齢者を中心に幅広い年代で、体の衰えが懸念されます。さらに私が注意喚起したいのは“バランス力”についてです」
こう話すのは、愛媛大学大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授の伊賀瀬道也先生だ。バランス力とは、姿勢を維持する力のこと。いわゆる“体幹”や“インナーマッスル”とも関係している。伊賀瀬先生の研究では、片足で1分以上バランスを保てない人はバランス力が低下していて、そこから筋肉や骨密度、さらには認知機能の衰えにも影響してくるという。
外出を控えて日々の運動量が減ると、体を支える力が弱くなってしまう。すると、姿勢が悪くなったり、転倒しやすくなったりする。
「特に太ももの筋肉が減少してくると、バランス力の衰えが顕著に現れてきます。片足で靴下をはこうとするとふらついてしまうのも、バランス力の衰えのサインです。筋力が低下し身体機能が衰える“フレイル”の状態になると、健康寿命が短くなってしまうこともよく知られています。次に骨ですが、骨密度が低下すると、骨粗しょう症のリスクが高まります。同時に骨が変形したり、転倒しやすくなることで骨折、そこから寝たきりになってしまう人も多いのです」(伊賀瀬先生・以下同)
それだけでなく、バランス感覚の衰えは認知症のリスクも高めてしまうことがわかってきているという。
「高齢者の方々に、片足でどれくらい立っていられるかのテストをしてもらったところ、20秒以上キープできなかった人には、かくれ脳出血やかくれ脳梗塞を起こしているケースが多くありました。同時に、片足立ちが得意でない=バランス力が衰えている人ほど、脳に萎縮が見られる傾向があることもわかっています。片足立ちがどれくらいできるかは、脳の健康のバロメーターともいえるのです」
あなたはどれくらい片足立ちの姿勢がキープできるだろうか。上げやすい方の足を軽く上げ、そのまま何秒浮かせていられるか測ってみよう。20秒できない、という場合は大いに注意が必要だ。