「全国の県庁所在地における食料品の購入額がわかる総務省の『家計調査』を見ていくと、都道府県ごとの健康格差が見えてきます」
そう語るのは、総合内科医で秋津医院の秋津壽男院長。
そこで本誌は、2月6日に発表された2023年の家計調査、なかでも健康的といわれる食品(豆腐、さば、コーヒー、野菜)と、取りすぎはNGといわれる食品(カップ麺、炭酸飲料、食塩)の都道府県別の購入額を中心に検討。女性の「65歳からの平均寿命」(65歳まで生きた人の平均寿命)のランキングを作成し、健康状態の地域差を探ってみた。
注目したいのが「65歳からの平均寿命」で1位となった沖縄県。
「沖縄県は女性のがんの罹患率がもっとも低く、国立がん研究センターの調査(2019年)では、とりわけ女性のがん死亡数が最も多い大腸がんとその次に多い肺がんの罹患率の低さは全国トップ。そんな沖縄県は豆腐の購入額が全国1位です。沖縄の豆腐は濃厚で硬い島豆腐で、炒め物やみそ汁の具として多く摂取されています。豆腐に含まれる大豆イソフラボンは女性ホルモンと似た働きをして健康をサポートします。大腸がんや肺腺がん、乳がんのリスクを下げる研究も報告されています」(秋津先生、以下同)
沖縄県の女性は、過去1年間にウォーキングか軽い体操をしたと答えた人の割合が全国2位と、日ごろから体を動かしているようだ。その一方、沖縄特産の島豆腐は塩分が多く、また沖縄の食塩の購入額も7位。塩分摂取量の多さは、心筋梗塞や脳卒中など血管トラブルの病気を招くという。
■島根県は100歳以上の人数が現在まで11年連続で日本一
女性の「65歳からの平均寿命」で2位となった長野県は、健康長寿県としてすでに知られている。
「長野県は、野沢菜漬けなど塩分の高い食材が多く塩分摂取量が多いのが特徴。かつては脳卒中が多いという問題を抱えていました。現在でも食塩の購入額は全国3位ですが、体内の塩分を排出してくれるカリウムが多い野菜の摂取量を増やす県・自治体の取り組みが功を奏しているようです。『国民健康・栄養調査』でも野菜摂取量では長野県が抜きん出て高い。日ごろからふんだんに野菜をとり食塩摂取量の多さを打ち消しているのです」
3位となったのが島根県。厚生労働省の住民基本台帳によると100歳以上の人数は現在まで11年連続で日本一。100歳以上の9割近くが女性という長寿県でもある。
「寝たきりや介護を受けずに健康的に暮らせるまでの年齢を意味する健康寿命でも女性が6位と全国トップクラスの島根県では、さばの購入額が全国2位。さばには血液をサラサラにするオメガ3脂肪酸のDHAやEPAが豊富。中性脂肪値の低下や認知症予防効果だけでなく、糖尿病や心臓病のリスクを低下させるという研究結果も。また肝機能を高めるオルニチンが多いシジミの購入額も日本一。島根県の女性の糖尿病や肝疾患の死亡率が顕著に低くなっていることと関係しているようです」
ちなみに健康寿命で3位にランクインしている宮崎県(「65歳からの平均寿命」では22位、以下同)はさばの購入額が1位。青魚の血液サラサラ効果が健康状態の改善に深く関わっているようだ。
また健康寿命で2位の山梨県は、食事時間がもっとも長い。スローライフが影響しているのかもしれない。
平均寿命で2位の滋賀県(8位)は、喫茶文化の影響があるという。
「滋賀県はコーヒーの購入額が1位です。クロロゲン酸のポリフェノールが豊富なコーヒーは、心臓病や脳卒中、呼吸器疾患の死亡リスクを下げることが明らかになっています。また大腸がんや肝がんの予防効果も報告されています。コーヒーを飲みながら人とおしゃべりすることも多いはず。コミュニケーションをとることで社会性が高くなり認知機能が低下しにくい効果ももたらしてくれるのです。
また、滋賀県はがん死亡の7割以上占める大腸、胃、肺、肝臓、乳がんの5大がんの罹患率や死亡率も低く抑えられています。女性の喫煙率や肥満症有病率が低く、さらに鮒寿司や漬け物など発酵食品文化が腸内環境を整えているのでしょう」
一方、岩手県(42位)は「国民生活基礎調査」(2019年)によると、糖尿病の患者数が3位、脳卒中の患者数が1位に。そんな岩手県では炭酸飲料の購入額が日本一。
「英ケンブリッジ大学の研究チームが、糖分が多い炭酸飲料を多く飲む人は糖尿病になるリスクが急上昇することを報告しています。また、血糖値が上がると血管トラブルが増加。脳卒中などの危険性が高まります。糖尿病予防には炭酸飲料を控えつつ、運動を心がけることが大切です」