「歩いても10歩進むと腰が痛くてたまらなくなり、少し前かがみになって休んでは、次の10歩という状態……。
痛みで寝返りさえ打てませんでした。これからの人生、この腰の痛みとともに過ごすのかと思い暗い気持ちに。
神経が集中するところにメスを入れる手術は大きな決断でしたが、痛みもなく歩けるようになった今は、世界が変わったように感じています」
と語るのは、女優で歌手の山口いづみさん(70)。
長年患っていた腰痛の治療のため25日間の入院生活で3度の全身麻酔手術を行ったことをブログで報告した。
「腰の痛みは30代後半から。33歳と34歳のときに産んだ2人の息子の子育ての負担が大きかったのでしょうね。病院では『腰椎変性すべり症(以下、変性すべり症)』と診断され、痛みがあるときはコルセットをしたり薬を飲んだりして過ごしていました。
ところがここ2~3年は、腰の痛みと両足に走るしびれがひどくなり、痛み止めを飲んでも、ブロック注射を打っても効かなくなっていたのです」
去年の暮れには、おばあさんのように前かがみにならないと歩けなくなっていたという。
「仕事先でも、少しでも建物に近い場所に車をとめてようやくたどり着くという感じ。友達から旅行に誘われても行けない……。
こんな悲鳴を上げながら暮らすのはもういやだと、手術に踏み切りました。
詳しく調べてもらうと、変性すべり症のほかに腰部脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアを併発。背骨の3~5番が完全にずれて、骨と骨の間の神経が行き場をなくしてとぐろを巻いている状態。執刀医には『よくこんな状態で頑張りましたね』と言われました」
手術では、12本のボルトでずれた背骨を固定。リハビリも終え、現在は女優活動に復帰した山口さんがこう続ける。
「今回の経験を通して、改善できるものは早く対処したほうがいいと思いました。
最初に変性すべり症と診断されたあとに、運動をして筋力を鍛えればよかったかもしれません。
腰痛はひどいときと、痛みがない時期が交互にあり、また仕事柄しかたないものと思ったり、忙しくて病院に行けなかったりしたことも。30年近くも放置したことが招いた病いでした」
山口さんが患った腰椎変性すべり症とは、いったいどのようなものなのか?
整形外科医で中田病院(埼玉県加須市)の院長、中田代助医師が解説する。
「私たちの背骨(脊椎)は、頸椎、胸椎、腰椎と連なっており、腰には5つの骨(腰椎)が規則正しく並んでいます。
変性すべり症は、加齢とともに骨の間のクッションの役割を果たす椎間板や骨をつなぐ関節が緩んで、本来の位置より3ミリ以上ずれる病気です。とくに第4腰椎が第5腰椎に対して前方にずれて発症します。
骨の間の関節が炎症を起こして腰に痛みが出ることも。また神経の通り道である背骨の中の脊柱管が狭くなって神経を圧迫。足に痛みやしびれが出ることもあります」
じつは、50代女性で14.7%、約131万が罹患していることに。60代でも5~6人に1人は変性すべり症に罹患しているという報告もある。
また、すべりによって脊柱管が狭くなるため、広義の脊柱管狭窄症といえるが、高齢者に多く骨がもろくなる骨粗しょう症によるものと多少異なるようだ。
「閉経後の中高年の女性に多く見られることから、骨の強化やじん帯の弛緩などに関与する女性ホルモン『エストロゲン』の減少や妊娠が発症に関係があると考えられています。
また男性と比べて筋肉量が少ないことで、背骨を支える腹筋や背筋の力が弱いことから、女性の発症が多くなっているのでしょう」(中田先生、以下同)