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都内近郊に住む46歳の女性は今、ある病に悩まされている。

 

始まりは昨年の秋に熱と咳が出始めたこと。

 

しばらくして呼吸器内科を受診し、咳ぜんそくの疑いで治療を受けたものの咳は治らず、その後も症状が変わらなかったため3カ月後に再度受診して検査をしたところ「肺MAC症」という病気にかかっていることが判明したという。

 

「咳と痰が出る以外は体調も普通でした。感染した時期も謎。わからないことだらけで驚いています」

 

この肺MAC症にかかる人が増えている。

 

10万人あたりの罹患者数は2014年から2017年の3年間で約30%増だ。

 

肺MAC症とはどのような病気なのだろうか。

 

国立病院機構近畿中央呼吸器センター医師の倉原優先生に話を伺った。

 

「土壌や水回りといった身近な場所にひそむMACという菌にさらされることで感染して、慢性の呼吸器症状を発病する疾患です。

 

日常生活の中で多くの人がこの菌に出くわしていますが、発病しない人のほうが圧倒的に多い。

 

病気になる原因は人間側の免疫などにあると考えられています」

 

人から人への感染はなく、罹患しても届け出の必要はない。

 

それにもかかわらずこの病が増加している理由として、倉原先生はこう話す。

 

「MAC菌は結核と同じ抗酸菌という種類に属していますが、これまで結核に重きが置かれ注目されてきませんでした。

 

しかし疾患の診断をするための抗体検査が普及してきたことや、疾患の認知度が医療従事者内で上がってきたことで、隠れていた罹患者が表に出てきたことが一因と考えられます」

 

罹患者の大半は50代以上。男性よりも女性に多く、加齢とともに増加する。

 

発病する人としない人がいる理由はいまだによくわかっていない。謎の多い病気なのだ。

 

「今わかっていることは、気管支が加齢とともに広がる“気管支拡張症”という特徴を持ったやせ型の女性が発病しやすいこと。

 

加えて、この抗酸菌に弱い体質の人がいるということも最近わかってきました」(倉原先生、以下同)

 

また、女性ホルモンが低下する閉経期に発病しやすいというデータもある。

 

同じ環境にいても、罹患するのはなぜか、大半がやせ型の中高年の女性なのだ。

 

感染ルートは、浴室内や洗面所といった水回りや、家庭菜園など土を触る作業中にMAC菌を吸引することが感染原因とみられている。

 

肺MAC症に罹患した前出の女性は、日ごろから衛生管理や掃除は怠らないようにしていたが感染した。感染した時期に心当たりはないという。

 

気付かぬうちに感染してしまうこともこの病の怖い点。

 

「よく見られる症状は、息切れや咳、喀痰、血痰です。肺MAC症の進行はゆるやかですが、もしこれらの症状があっても治療をせずに放置していると、肺の中に穴が開き始めます。

 

この穴ができると菌の量がケタ違いに増えて炎症が強くなり、肺の破壊が始まります」

 

肺に空洞ができてしまうと治癒率は極端に低下する。倉原先生が診た患者の中にも、あと1~2年早く受診できていれば……と思ったケースは少なくないという。

 

「肺に破壊が起こった場合、晩年に在宅酸素療法を装着する必要が出てくるだけでなく、日常生活の動作もつらくなります」

 

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