〈人がキレイになる過程が何よりの喜び〉72歳カリスマ美容部員が41年間の接客で感じた“美容のパワー”
画像を見る 母の病気をきっかけに専業主婦から化粧品販売員に転身し、日本一にまで上り詰めた長谷川桂子さん(撮影:小松健一)

 

■「女がキレイになるって大変で難しい。でも、それが何よりも楽しいのよ」

 

メークにこだわる桂子さんだからこそ、コロナ禍は気分がガクンと落ちたという。

 

「コロナ禍では、毎月40本以上売れていた口紅が1年でたったの4本しか売れなかった。売り上げが下がることよりも、みんなマスク生活で『化粧をしなくてもいい理由』ができた。それで手を抜く人が増えたことがショックでした。その反動で、今は、ほうれい線のケアの仕方を忘れたとか、ファンデーションは何を選べばいいかわからないという相談ばかり。女性も50歳を過ぎると、メークにかける時間が3分という人が増えてきます。私みたいに1時間かけろとは言いませんが、オシャレが存分にできるのは平穏だからこそ。もっと美しくなることに貪欲になってもいいと思います」

 

新見に帰って41年、桂子さんを横で見守ってきた、安達太陽堂社長を務める、夫・俊二さんが語る。

 

「売り上げも桂子にとっては大事なことかもしれませんが、それ以上に、目の前のお客さんにとって大切なモノは何かを見つけて、それを提供できることがいちばんの彼女の喜びじゃないかな。言ってみればお節介。ただし、そのお節介を徹底してやっていることがすごいと思います。まあ、私はそのお節介をされた記憶がないけど……」

 

娘の綾さんは、母である桂子さんをこう見ている。

 

「店では美容のプロですが、実は天然ボケで家ではいじられキャラ。とくにカタカナが苦手でいつも家族に突っ込まれています。アナフィラキシーショックも何度注意しても『あなひらきー』と間違う。それでもお客さんに伝わればいいと思っているし、そんな母を許してくれるお客さんばかり」

 

さらに綾さんはこう続ける。

 

「小さいときは、母にはエプロン姿で待っていてほしいと思ったことも。私は、祖父(謙吉さん)が薬剤師として店頭に立てなくなり、急きょ、大学院をやめて帰ってきたので、店を継ぐという決意はあまりなかったんです。でも、裏表がなくて、楽しみながら仕事をしている母と一緒に店に立つようになって、結果的にこの仕事が向いていると思えるようになりました」

 

桂子さんが母から渡されたバトンは、綾さんに渡される。さらに綾さんの一人息子で、桂子さんの孫の颯大君(9)も、夢は薬剤師になって店を継ぐことだと、学校の学習発表会で“宣言”したという。桂子さんが目を細めて語る。

 

「頭にタオルを巻いたスッピンの私に、颯ちゃんが『バアバが“おばあちゃん”になるのはお風呂から上がったときだけだね』と言うんです。まだまだ、女心をわかっていないわね。でも、夏前に紫陽花の剪定を手伝ってもらっていたとき、『来年キレイに咲かせるためにはこの枝を切らないといけないのよ』と教えたら、『キレイになるって大変だし、難しいね』と不思議そうな顔をしていました。美を作るには褒めてばかりでもいけないし、花を育てるように、難しい。けれども、それが何よりも楽しいことだと、颯ちゃんがわかるときも来るのかしらね」

 

そう言って桂子さんは「ふふふ」と笑う。彼女の“お節介”は、まだまだ終わらない。愛ゆえに厳しい美容指導の声が、今日も、安達太陽堂の店内に響いている。

 

(取材・文:山内太)

 

画像ページ >【写真あり】「悩みを本人の口から話してもらうまでが、大変。そのスイッチを押すために、まずはお客様を褒めて差し上げることからですね」と長谷川さん(他3枚)

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