「もともと、人は昼間に活動して、夜は寝るというサイクルがあります。血圧にも一定程度のサイクルがあり、寝ているときは安定していて、起き上がると上昇していきますが、適度な変動の波はあります。しかし、高波のように血圧が急上昇する『血圧サージ』は、急性心筋梗塞や脳卒中を引き起こす“最後の引き金”となってしまう恐れがあるんです」
こう話すのは、著書に『血圧サージに殺されない50の方法』(自由国民社)がある新小山市民病院・病院長の島田和幸先生。健康な人の血圧の基準は、「収縮期血圧(上)140mmHg未満、拡張期血圧(下)90mmHg未満」とされ、それぞれの数値を上回ると「高血圧性疾患(=高血圧症)」と診断される。
「ただ病院の血圧測定で正常と言われた人でも、朝と夜の一定の時間にだけ、突然死を招くような“危険な数値”を出すことがあります。これが血圧サージです」
この「早朝高血圧」とも呼ばれる血圧サージの原因を、島田先生に聞いた。
「血圧は1日24時間変動していますが、人間の体には、なるべく血圧が変動しないように制御する恒常性(ホメオスタシス)という機能があります。これが正常に働かなくなったときに、血圧の急上昇が起こるわけです。また、(1)血管がしなやかさを失う動脈硬化、(2)自律神経のバランスが崩れる、(3)ホルモンの働きが低下する、という3つの要素が重なったときに恒常性が失われるともいわれています」
高血圧は男性に多いと思われがちだが、高血圧性疾患の総患者数の推移を見てみると、40代では男性の半数程度だった女性の高血圧性疾患の数が、50代ではほぼ男性に近づき、60代以降は男性を上回っているのがわかる(厚生労働省「平成26年患者調査」)。
そして、この50代以降の女性に増える高血圧性疾患で、最も注意すべきなのは“気づいていない人がいる”ということ。病院の健診で正常と診断された人でも“隠れ高血圧”の可能性があるのだ。
「血圧サージが起きているかどうかを知るには、起きてすぐに血圧を測るしかないのです。50歳を過ぎたら、自分用の血圧計を購入することを、私はお勧めしています」
そう言う島田先生に「薬に頼らない高血圧対策全10カ条」を教わった。
【1】毎朝夜、自宅で血圧を測る
「起床後1時間前後あたりで、トイレをすませ、朝食前の状況で測るべきです。家庭で測るときは、上135mmHg―下85mmHgを高血圧の目安としてください。上が150mmHgくらいになっていたら、診察が必要です」
【2】目覚めの水を飲む
「起床後すぐに、コップ1杯程度の“目覚めの水”を飲みましょう。就寝中に発汗や蒸発で体の水分が失われているため、起床後は血が濃くなっている状態です。粘性が高まれば、血栓が生じて血圧サージを引き起こしやすくなりますから、水分補給は対策として有効です」
【3】禁煙+お酒は適量に
「ニコチンは血圧と心拍数を上昇させ、血管を傷つけます。また夜に飲酒することは、翌朝には体の水分が激減しますから、血圧サージを招く原因にもなります。週に3日以上は飲まないでください」
【4】食事の量を減らす
「日本人はあきらかに食べすぎ、そして野菜摂取量が少なすぎます。50代の女性でしたら、1日1,600キロカロリーほどに摂取カロリーを抑えるようにしましょう」
【5】減塩する
「成人女性に必要な塩分は、1日7グラムといわれていますが、味噌や醤油文化がある日本では、ふつうに食べているとオーバーしてしまう量です。塩分のかわりにお酢やレモンなどの酸味を使うなど、工夫をしましょう」
【6】頻繁に魚を食べる
「イワシやサバ、マグロなどの魚には、善玉コレステロールの増加効果と、悪玉コレステロール、中性脂肪の減少効果に加え、血管のコンディションの改善効果があります」
【7】ゆっくり食べる
「ゆっくりよくかんで食べることで、消化を促進できます。同時に口の周りの筋肉が鍛えられることで消費カロリーを増大させ、老後の誤嚥リスクも軽減します」
【8】体をつねに動かす
「ウオーキングがいちばん効果的ですが、スクワットなどの簡単な筋力トレーニングも組み合わせたほうが、さらに血管の柔軟性を保つことができます」
【9】ストレスフリーな生活を
「温泉やヨガ、太極拳などの趣味は、リラクゼーション効果がありますから、血圧安定に役立ちます。日常から自律神経の調整を心がけましょう」
【10】7時間睡眠をする
「睡眠不足は血圧を上昇させますので、早寝早起き、1日睡眠7時間を心がけてください。また、いびきがひどい人は要注意です。睡眠中に断続的に呼吸が止まってしまう睡眠時無呼吸症候群になると、呼吸が停止することで深い睡眠に入ることができません。そして睡眠中も交感神経が緊張し続け、高血圧状態となり血圧サージも引き起こしやすくなるのです」
気になる人は、明朝の“目覚めの水”から始めてみては?