「熱中症対策だからといって、一度に水をがぶがぶ飲みすぎてしまうと、“水中毒”となってしまう恐れがあります。この水中毒は『低ナトリウム血症』といって、死亡例も報告されている症状なんです」
こう話すのは、日本慢性期医療協会認定の総合診療医で、高知総合リハビリテーション病院院長の小川恭弘さんだ。8月ももう下旬だが、猛暑はおさまる気配がない。10~16日の1週間で、熱中症によって救急搬送された人は全国で1万2,804人。これは、前週の2倍近い数字だ(総務省消防庁発表)。
東京都監察医務院によれば、東京23区内では、1~17日に103人が熱中症で死亡しており、いずれも50代以上。東京消防庁は「こまめに水分補給するように」という熱中症対策を提示している。しかし、過度の水分補給には“落とし穴がある”と小川さんは注意を呼び掛けている。
「血液も含め、人間の体はおよそ70%が水分(体水分)。その1リットルあたりに4.2グラムほどの塩分が含まれており、発汗や排尿によって塩分を含んだ体水分が失われると喉が渇きます。発汗の多い夏場に、とにかく水を飲みたくなるのはこのためです。体が水分と同時に塩分を欲しているときに、塩分を含まない水を多量に飲んでしまうと、体水分の中の塩分濃度が極端に下がり、『低ナトリウム血症』になってしまうんです」
この状態が水中毒であり、進行度によってさまざまな症状が現れる、と小川さんは解説する。
「血液中のナトリウムイオン(Na+)の正常値(基準値)は138~145ミリイクイバレント(以下、同単位)。水を大量に飲むことで130を下回ると『軽度の疲労感』をおぼえ、120を下回ると『頭痛』『嘔吐』『精神症状』などを訴えるようになります。110を下回ると『痙攣』や『昏睡』状態に陥り、100以上では神経の伝達が阻害され『呼吸困難』などで死亡することがあるんです」
この低ナトリウム血症はさらに「甲状腺機能低下症」や「ネフローゼ症候群」(=血液中のタンパク質濃度が薄くなり、むくみなどが起きる)などの疾患や、「腎不全」「心不全」なども引き起こすことがあるという。
熱中症対策には「水分補給」が必須なのは間違いないが、水中毒も避けるためには「水分と塩分を適量だけ補給することが大事」と小川さんは話す。
そこで、効率よく水分と塩分を取ることができる食料や飲料を、小川さんと管理栄養士で博士(学術)の竹並恵里さんに教えてもらった。
■水中毒から身を守る飲食料(目安:気温35度で必要な塩分は「7.5~10グラム」、40度近くでは「10~12.5グラム」)
【スイカに塩】
冷やしたスイカに塩をかける昔ながらの食べ方は、水分と塩分どちらも効率よく補給できる。
【もろきゅう】
「水分が多い食材といえば、野菜と果物。もろきゅうは味噌を使っていますから、同時に塩分も取ることができます。きゅうりやトマトなどの夏野菜は体を冷やす効果もあるため、トマトに少量の塩をかけて食べるのもよいでしょう」(竹並さん)
【味噌汁】
1杯で1.2グラムほどの塩分を摂取できる。塩分過多にならないため、1日1杯までに。
【肉、魚】
「味つけに塩分を用いることが多いので、大きな塩分摂取源になります。また、猛暑下では食欲を落とさないことも大事です。肉や魚介類にはBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)という必須アミノ酸が豊富ですが、血中でBCAAが不足すると拒食症状態になることが報告されていますので、主菜には必ず取り入れるようにしたいですね」(竹並さん)
【経口補水液】
「水分補給におすすめの飲料は、市販の『経口補水液』です。糖分が少なく、バランスよくナトリウムイオンなどを含んでいます。スポーツドリンクもよいとされていますが、こちらは取りすぎると糖分の過剰摂取で高血糖になる恐れもあるため、注意が必要です」(小川さん)
【塩入り麦茶】
「水中毒の治療では、点滴などに使う生理食塩水と同じ割合(水1リットルに食塩9グラム)の麦茶などを少しずつ飲みます。しかし予防としては、塩分の過剰摂取にならないよう、麦茶1リットルに対し食塩2グラムを混ぜて作り、こまめに飲みましょう」
そのほか、発汗量に応じて梅干しや塩飴などをこまめに摂取することも有効だそう。「適度な水分+塩分補給」でこの猛暑を乗り越えよう。
「女性自身」2020年9月8日 掲載