■チェックリストで5項目当てはまれば要相談
尾﨑医師が、老人性うつと認知症の判断が難しかった診断を、例を挙げて説明する。
「めまいの症状で来院した70代女性の方が、同じことを何度も繰り返し聞いたり、話したりするため、認知症の検査をしたところ、忘れてしまったことを思い出す『再認』がみられました」 この女性は不安の気持ちが強く、うつに当てはまる「再認」があったため、老人性うつを疑い、心療内科の受診を勧めたという。
しかし、老人性うつが見逃された場合は、認知症と誤診され、適切な治療が受けられないと、うつの特徴的な症状である自殺願望から、最悪の結末を迎えることも実際にある。
「ある70代女性は、私の診断では、うつや精神疾患の疑いがあったため精神科の受診を勧めました。しかしその後に受診した精神科では認知症と診断され、認知症の薬を処方されたそうです。その後、入所していた介護施設で自殺されたと聞きました。やはり実際には、老人性うつだったのではないかと思われます」
このように、老人性うつは最悪の場合「自殺」もありうるのだ。
著書に『60歳から知っておきたい 認知症ではなく「うつ」だと知るための50のこと』(徳間書店)がある、長谷川診療所院長の長谷川洋医師はこう話す。
「高齢者のなかでも、特に女性は孤独や孤立状態になりやすいと考えられます。平均寿命は女性が長く、現在の高齢者の世代は旦那さんが年上であることが多いので、死別すれば妻は一人暮らしになるケースも多い。 しかし、妻に先立たれた男性が『なんにも身の回りのことができない』と子ども世代に心配されるのに比べて、夫に先立たれた女性は、『一人で大丈夫だろう』と思われがちなんです」
また、長谷川医師も、老人性うつと認知症は、併存している場合も多く、診断が途中で変わることもあると指摘する。
ある70代の女性は薬の飲み忘れや飲み間違いが心配で、義理の娘の付き添いで長谷川医師を受診。
「ご本人は、『認知症だったらどうしよう』とか『孫に邪魔者扱いされたくない、生きていたくない』と話されました。検査や診察で、認知症と老人性うつの両方が疑わしい状態とわかりました。認知症とうつの薬を出していましたが、年月を追うごとに、緩やかに、うつと認知症の度合いが高まっていったんです」(長谷川医師、以下同)
老人性うつの「最悪のケース」を免れるために……長谷川医師は、独自の老人性うつチェックリストを示してくれた。
「11項目中、5つ以上当てはまれば、かかりつけ医や地域包括支援センターなどに相談すべきです」
では、日頃の生活では、どんなことを心がけるべきだろうか。
予防法と改善策を聞いた。
「まず1日のスタートである朝は、起きたら体を伸ばしましょう。朝日を浴びるのも、うつの予防にいいですね。さらに思い出したときでいいので、深呼吸を3回。1日3食きちんと取って、日中は人と会って会話を心がけましょう。そして寝酒は禁物です」
もしもメンタルの不調を感じたときは「1~2週間不調が続いたら、かかりつけ医に相談しましょう」と長谷川医師。
「転ばぬ先の杖」は、自分と家族のために!