「ジャブ、ストレート、ワン、ツー!」
声かけとともに、パン、パンと、ミットを打つ軽快な音が響き渡る。
東京のとあるジムでは、シニアの女性が華麗なミット打ちをしていた。平林さんというこの女性は何と御年81歳というから驚く。
ミット打ちの相手をしていたのは、柔道整復師の資格を持つ生井宏樹さん。接骨院「豪徳寺接骨院Palledo~パレード~」代表を務める生井さんはキックボクシングライト級1位に輝いたこともある元格闘家である。「パレード」にはジムも併設しており、60代以上の利用者は30人超を数え、最高齢は94歳の女性。現在、シニアの入会が殺到しているという。
「接骨院を開業したときに施術メニューのひとつとして、キックボクシングのパーソナルメニューを作りました。当初シニア層の利用は想定していませんでしたが、平林さんが“私もやってみたい”とリクエストしてくれたことをきっかけに、シニア世代のトレーニングを開始しました」(生井さん)
トレーニングを終えたばかりの平林さんは、全く疲れた様子も見せず、次のように話してくれた。
「高齢者ができる運動といえば、ただ単調に足を動かすだけのウオーキング程度だと思っていました。でも、キックボクシングを実際にやってみると、全身を思う存分動かせて、気分爽快! 楽しく体を動かせる点が魅力です。
また、悩んでいた肩こりがすっきりしたことにも驚きましたね」
シニアならではの不調や、老いへの対策にもなるという。
「ただパンチをするのではなく、相手の動きを考えて動く必要があるので頭を使いますね。脳トレにもなっていると思います。ハキハキと話せているでしょう(笑)。
あと、転びにくくなりました。以前は何もないところでもつまずいていましたが、キックボクシングを始めてから、そういうことはなくなりました」(平林さん)
80代とは思えないほど軽快なパンチやキックをくりだしていた平林さんだが、最初に接骨院に来院したときは股関節を痛め、杖をついていたというのだから驚きだ。
「平林さんは接骨院に通い、施術とリハビリで杖なしでも歩けるまでに回復。その後キックボクシングを開始しました。鍛えるうちに足腰の筋力がつき、杖はまったく不要に。その後、股関節の手術をしましたが、退院後もリハビリをしたあと、トレーニングを再開しました」(生井さん)
今は週に1回のペースでトレーニングをしているという。
「自分の足で不自由なく出かけられるので、お店で欲しい洋服を選びに行けることがうれしくて。毎日が楽しいですね」(平林さん)
キックボクシングをシニア世代に勧めるいちばんの理由は、転倒予防になる点だと生井さんはいう。
「筋力が向上して転倒防止になるだけでなく、瞬発力の向上により、万が一転んでも、とっさに手をつき大けがを防ぐことができます」
と、生井さんは続けて、この瞬発力が、昨今急増している高齢者を狙った強盗事件への心構えにもつながるという。
「万が一、強盗と遭遇したときに素早く逃げる瞬発力や行動力なども、養うことができると思います」