■手足を連動させて脳が活性化、認知機能の向上も
シニアがキックボクシングをするメリットは多々あると、理学療法士の小川内竜一さんは語る。
「高齢になると健康診断の検査項目に片足立ちがあり、体幹の筋肉が使えているかを確認します。そのとき筋力が低下していると、ふらつくことがあります。 歩行時も瞬間的に片足が地面と離れて片足立ちになりますが、ふらついて転倒の危険があります。
キックボクシングではキックするときに片足立ちになるため、バランス感覚が鍛えられて、ふらつきがなくなり、歩行が安定します。また、太もも周りの筋肉も使うので、筋力低下防止にも効果的です。
また、日常生活にはない動きをするので、ふだん動かさない筋肉を使うことができます。さまざまな筋肉を動かした刺激が隣り合う筋肉に連動して、全身が鍛えられます。手足を連動させて動かすことで脳が活性化。認知機能の向上も期待できます」
週1回のトレーニングを半年も続けると、多くのシニアが驚きの変化を遂げる様子を多く見てきた生井さん。
「コロナ禍の自粛期間中に筋力が低下してしまい歩けなくなった89歳の男性がいました。寝たままで脚を動かす筋トレを接骨院で行い、自力で立てるようになってからキックボクシングを開始し、平林さん同様に杖なしで歩けるようになりました。キックボクシングは杖をついていたとしても、自力で立てる状態であれば、様子を見ながら始めることができます。
1回のトレーニングで30分間連続して動けないというシニアもいるため、自費治療でのマッサージとキックボクシングを15分ずつにするなど臨機応変に無理なく進めて、シニアでも安心して鍛えられるようにしています」
シニアもハマる爽快感はどんなものか、キックボクシング未経験の記者が体験してみた。
生井さんが、パンチの基本姿勢から丁寧に教えてくれて安心感がある。「次はどこにパンチすればいいか」と考えて手足を動かすので、脳はフル回転する。体を数分動かしただけでも、ほかの運動では感じたことのない心地よさを感じると同時に、前向きな気持ちに。子どもに勧められ入会するシニアが多いと聞いて納得できた。
シニアに人気が出ている理由として、生井さんはこうも語る。
「“殴る蹴る”は本能に訴えかけるものなので、同世代がやっている姿を見て、自分の中の封印されていた何かが解放されて、本能が活性化するのかもしれません」
人生100年時代。輝き続けたいシニアにとって、キックボクシングは最高のエクササイズだ。