■50代女性の8割が保菌しているヘルペスウイルス
そもそもこの口唇ヘルペスをもたらす単純ヘルペスウイルスはありふれたウイルスだという。
「ほとんどの成人は、すでに家族間の食器の共有や子どもへの口移しなどを通して、幼児期に自然に感染し、抗体をもっていると考えられます。このウイルスに初めて感染しても多くは無症状なので気がつきません。2009年の調査によると、50代女性では79%(添付のグラフ参照)の人に単純ヘルペスウイルスの血清有病率(免疫の指標となる抗体がある)があることが報告されています」
年齢が下がると有病率が下がるのは衛生環境や家族のスキンシップの変化が影響しているようだ。
「体内に侵入した単純ヘルペスウイルスは、顔面の感覚を伝える神経の根元(神経細胞が集まっている神経節)に移動。生涯にわたって『潜伏感染』という形で潜み続けます。ふだんは、自身の免疫の働きによって抑え込まれているため、ウイルスが活発になることがありませんが、発熱をともなう疾患、身体的・精神的ストレス、疲労などにより免疫が低下すると、ウイルスが活性化し、症状を引き起こします。とりわけ今の時季は、紫外線による日焼けがきっかけで口唇ヘルペスになる患者さんが増えていきます」
紫外線には、皮膚の免疫を一時的に弱める作用があり、とくに日焼けの原因となる紫外線B波(UV-B)は表皮にいる免疫を監視する細胞を減少させるため、鳴りを潜めていた単純ヘルペスウイルスが活性化するのだという。
「つまり紫外線が、それまで眠っていたウイルスの“目覚まし時計”になって活性化させてしまうのです。紫外線を長時間浴びて皮膚が『軽いやけど』状態になると、神経の末端が刺激され、潜伏中のウイルスが表皮に移動しやすくなることも知られています」
