(写真提供:ニッセイエコ)
「参列者が自動車に乗ったまま、受付でタブレット端末を使って記帳、香典を預け、焼香もできるという参列システムが昨年12月に長野県の葬儀場で開始されました。“全国初のドライブスルー葬儀”と話題になったこのシステムは、車内の参列者が焼香する模様が葬儀場内のモニターで映されるため、喪主や参列者に『誰が焼香に来たのか』がわかるということでも注目されたんです」
そう語るのは、葬儀・お墓・終活コンサルタントで、社会福祉士の吉川美津子さん。厚生労働省によると、現在の日本の死亡数は年間130万人を超え、’30年には160万人を突破すると推計されている。それに伴う葬儀業界の人手不足や墓不足で、マンション型の自動搬送式の納骨堂なども登場した。
そんな合理化が進むなか、ITツールを使った“ハイテク葬儀”が増えているという。ドライブスルー葬儀を導入した長野県の冠婚葬祭会社、レクスト・アイ社長の荻原政雄さん(67)が次のように話す。
「昨年12月に新オープンした葬儀場『上田南愛昇殿』に導入しました。長野県は長寿県で、高齢の方には足腰の不自由な方も多い。車の乗降も大変だという方のなかには、『人の世話になるのは申し訳ない』と友人・知人などの葬儀出席をあきらめる方も多かったんです」
そこで、考案されたのがドライブスルー葬儀だった。
「車内から火を使わない電熱式の焼香ができるので安全です。焼香の様子は、後部座席の方もカメラで中継されますので、車内全員のお顔を喪主に見せることができます」
だが、ドライブスルー葬儀の“合理化”には批判的な声が多かったという。
「ええ、『窓越しに焼香なんて、不謹慎じゃないか』などというクレームがたくさんありました。ネットの書き込みはさらにひどく……。でも最近は、『この形式でなければ、参列できなかったよ』という声も増えてきました」(荻原さん)
参列方式がハイテク化する一方、なんとロボットが読経するシステムを作った企業がある。神奈川県のプラスチック製品製造会社、ニッセイエコIT事業部マネージャーの船木修さん(52)はこう語る。
「当社では毎年2回、社内の物故者慰霊祭を催しています。そこで、ソフトバンクさんのロボット『ペッパー』に住職の代わりに般若心経を唱えてもらう企画をしました。すると思いのほか出来がよく、社員からも好評でした。そこで感触を得て、レンタルサービス化を目指しました」
そして’17年8月、実用が可能な段階になり、プレス・リリースを出したのだが……。
「それを伝えるネットニュースなどに書き込まれたコメントは、『ロボットがお経なんて、冒涜だ!』『不謹慎だ』と、ほぼ批判的なものでした」
しかし、グループ会社に葬儀社を持つ同社の船木さんには志がある。
「現在、檀家さんの寺離れが進んでいますが、“ペッパー導師”がお寺に足を運ぶきっかけになってほしいと考えています。お坊さんのサブ、つまり副住職として置くことで、檀家さんのお子さんにも興味を持っていただけるのではと。お寺に親しみを持ってもらう手伝いをしたいんです」(船木さん)
残念ながら、まだ寺での正式な導入はなく、本格デビューはお預けだという。
葬儀に合理化や新たな演出法をもたらしている、IT技術によるハイテク化。だが、それを不謹慎だと考える人も多い。前出の吉川さんはこう考える。
「たとえば、段々飾りの祭壇も、戦後にメーカーが始めたもので、伝統的なものではなかったのです。批判される理由もわかりますが、新しいことを創造していくことは発展的でいいと思います。かつては家単位で『わが家の供養』の定型があったのですが、昨今は価値観が多様化し宗教観も変わってきています。そのため、業者も100社あれば100通りの開発商品を出すという流れになっている。ただ、業者側はIT化や効率化よりも前に、まず介助スタッフの増員や葬儀場のバリアフリー化を優先させるべきだと思います。ハイテク葬儀には賛否両論あるでしょうが、それを家族で話し合い、『弔い』について考えるきっかけにすることができれば、有意義ではないでしょうか」