「若いときと比べて、ちょっと反応が鈍いなと感じたら、人を傷つけないうちに返すのが賢明かと思う」
6月7日、俳優の杉良太郎さん(74)が高齢者の悲惨な事故が続くなかで、自身の運転免許を自主返納した様子は大きく取り上げられ、“杉様に続け!”“これが高齢者ドライバーのお手本”と、称賛の声が多く上がった。
現在、“社会も人も安全・安心な街づくり”を目指す任意団体「調布高齢者免許自主返納推進市民会議」のメンバーの岡田稔さん(85)は、3年前に免許を自主返納した。
「私は浮いた維持費で、移動用に電動自転車を購入しました。返納後は、電車やバスを使って家族と旅行する機会が増えましたね」
同じく市民会議のメンバーである増田雅則さん(79)も、浮いたお金で電動自転車を買った1人だ。
「私の場合、すでに家内に先立たれていたので、車で家族旅行をすることもなく、運転する機会もだんだん減っていきました。1人で生活していくなかで、年間50万円ほどかかる維持費を払い続けるのもどうかと考えるようになり、返納したいまでは、“お金も浮くし、日々の移動は運動にもなる!”と感じています」
移動にはしばしば電動自転車を利用しているという増田さん。車より移動時間がかかるが、不便さを感じたことはないと言う。
「車なら30分で行けたところを、自転車で1時間かかっても、極端に生活が不自由になることはない。高齢者には、時間はたっぷりとありますから(笑)」
’16年7月に設立された「調布高齢者免許自主返納推進市民会議」は、高齢者ドライバーが抱える問題を踏まえつつ、免許返納にまつわる提言を、行政などへ積極的に行っている。前出の岡田さんが解説する。
「たとえば、免許更新制度の変更。高齢者の免許更新時の講習は、意外に審査が甘いんです。そこで、ドライブレコーダーを使い、運転技術を機械で点数化することで審査を厳しくし、規定の点数に満たなかった人には免許返納を勧告するようなシステム作りなどを提案しています。
同市民会議の山添登代表(84)は、最後に力強くこう訴えた。
「返納を決断する重要なポイントは、返納後に高齢者が不安なく暮らせるための公共のインフラ整備とサポートが、どれだけあるか。都内ではタクシーを使って移動しても車を手放したほうがおトク、という話がありましたが、地方でも気軽にタクシーやバスが利用できるように、行政が環境整備を進めていくことが急務です」