人生100年と言われる時代。定年を過ぎた後も長い時間を快適に過ごすためには、“定年前”の心構えがとっても大切。過度な楽観は禁物ですが、決して悲観しすぎることもありませんーー。
夫が定年を迎えたら、そのときに入る退職金で海外旅行をしたい、ブランドもののバッグを買いたいなどと、使い道をあれこれ考えたことはないだろうか?
「多くの人が、『退職金は長年働いた自分へのごほうび』と勘違いしていますが、あくまでも『給料の後払い』です。数千万円という単位で振り込まれた通帳を見ると、豪華な旅行に出かけてしまったり、投資をしてしまったりして、病気や介護が必要なときにお金がない、という話をよく聞きます。定年後にまつわる“勘違い”をなくして、“定年前”の今から夫婦で準備をすれば、安心した生活を送ることができますよ」
そう語るのは経済コラムニストで、著書に『定年前、しなくていい5つのこと「定年の常識」にダマされるな!』(光文社)がある大江英樹さん。大江さんは、自身が大手証券会社に定年まで勤務した経験をもとに、資産運用やライフプランニングに関する講演や執筆活動を行っている。
大江さんによれば、“定年前”の準備は定年のタイミングの5年前には着手しておくことが、快適な老後につながるという。
定年を迎えた夫に、“地域デビュー”をすすめる妻もいる。
「私の友人でも、災害の救援活動を始めたり、近所で小学生の登校の見守りに取り組んでいたりする人をよく見かけます。自分のやっていることが確実に誰かの役に立っていると生きがいを感じるボランティア活動は、充実した時間につながるでしょう」(大江さん・以下同)
ところが、サラリーマンを定年退職後、謙虚になれないシニアが、“上から目線”で人に話しかけようとする傾向がある。夫にそんな“マウンティングおやじ”の傾向があれば、地域コミュニティへは参加させないほうが無難だ。
「ほかに、無理をして同じ趣味をもとうとすると失敗してしまいがちです。一緒に何かを始めると、夫は妻にアドバイスや指図をしたり、しまいにはけんかに発展することも。『家でゴロゴロしてもらっては困る』という声をよく聞きますが、妻が外に出られるように立派な専業主夫になってもらうのもひとつの手段でしょう」
そこで、定年前の「趣味」の準備について大江さんが解説してくれた。
■やるべきこと
【お金がかかる趣味の資金を準備する】
趣味がないという人は、学校やカルチャー教室などで学ぶプランもある。
「私は定年の1年前から、大人のジャズサックス教室に通い始めました。きちんと先生から教わることで独善的にならず、趣味がガンコ老人になるのを防ぐきっかけになってくれて一石二鳥です」
少しお金のかかる趣味であれば、そのための資金を定年前にためておこう。
【“遊びの計画”を立てる練習をする】
スケジュール帳には、旅行やコンサートなど、遊びの計画を積極的に書き込もう。
「『計画を立てたら達成しなければならない』と思うかもしれませんが、これは楽しい気持ちで過ごすためのもの。定年後にぼんやり過ごさないために習慣づけておくことが大事。達成できなくてもいいので、楽しいことを考える習慣をつけましょう」
■やってはいけないこと
【夫婦で共通の趣味を見つけておく】
妻の趣味を夫も一緒に始めようとするときは注意が必要。
「夫は“サラリーマン脳”が抜けきらないので、最初は妻の言うことを素直に聞いていても、そのうち夫のほうが上達が早かったりすると、命令口調で指図し始めてしまいます。趣味は夫婦別々のほうがうまくいくことが多いようです」
【地域コミュニティには必ず参加する】
夫に“マウンティングおやじ”の自覚がないまま、地域の行事などに参加させてしまうと、家族もろとも村八分になってしまう恐れも!
「地域の人たちが困っていることや人手が足りないから手伝うというスタンスで地域の催しに参加して、少しずつ溶け込めるようならもちろんOKです。くれぐれも無理をさせないように」
お互いを尊重するためにも、余暇活動についても考えておこう。
老後は悲観的に考える必要はないが、いっぽうで“バラ色”というように楽観的すぎる考えを持つのは危険なことも。
「老化の進み方は人によってさまざまですから、70歳、80歳になっても若者に交じって活発に行動するのはいいことです。ただし、無理は禁物。加齢にあらがうこと、アンチエイジングはしないほうがいい。楽観でも悲観でもなく、老後を淡々と受け入れる。私の造語ですが、“アクセプト(受け入れる)エイジング”という考え方が大切だと思います」
「女性自身」2021年3月9日号 掲載