老舗京菓子店「亀屋良長」の女将・吉村由依子さん「最初はあんこの作り方も知らなかったけど、ワクワクを商品化」
画像を見る 自由な発想で次々と商品のアイデアを出していった由依子さん

 

■洋菓子作りに夢中だった少女時代

 

吉村由依子さんは1977年3月3日、淳二さん(85)、淳子さん(79)の間に生まれ、兄2人、姉1人の末っ子として、苦労もせず、のんびりと育った“箱入り娘”。

 

「日々の不満もなく、何も考えないでぼーっとしているような、アホな子でした。兄に『なに考えてんの?』と言われて『なんにも』と答えて、笑われたりしていました」

 

一方、父は京都大学医学部の教授だった。

 

「父は家に帰ると、ふすま一枚隔てた書斎にこもって論文を書いたり、いつも勉強しているタイプ。優秀な姉は医学部進学を期待されていましたが、私は父から勉強のことで何も言われたことがありません。期待されないことも、むしろ居心地がよかったです。父から受け継いでいるところですか? 頭脳は全く受け継がれず、歯が大きいところくらいかな(笑)」

 

由依子さんはこう語るが、父や、自宅でバイオリンを教えていた母親からは、探究心を受け継いだようだ。

 

「隣に住む幼なじみの家に毎日のように遊びに行っていたんですが、昼の3時ぴったりに、その家のおばあちゃんが手作りのお菓子を振る舞ってくれたんです。アップルパイやブルーベリータルトとか食べたことがないものばかりで、すごくおいしくて母に『おばあちゃんに作り方を聞いて、お母さんも作ってよ』とせがみました」

 

それがお菓子との出合いで、レシピ本を見るために図書館に行っては“これは!”と思うものを友人たちと作った。ただし、レシピどおりではなく、勝手にアレンジしてしまうために失敗も多くて上達はイマイチ。

 

「スポンジケーキが膨らまなくてもクリームを塗ってごまかしたりしました。ゼリーを作るとき、キウイを入れて固まるのを何時間も待ったことも。キウイの酵素でゼラチンが固まらなくなることは、だいぶ後になって知りました」

 

お菓子や料理に興味を抱き、同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科に進学した。

 

「大学では茶道部に入部しましたが、お菓子を食べるのが目的で、活動はグルメ部に近かったです。高校生まで外食はほとんどしたことがなく、初めて懐石料理を食べたときは感動したし、イタリアンでは何種類もパスタがあることにびっくり。外食のたびに“世の中にはこんなにおいしいものがあるんや”と驚きました」

 

和食は味付けが予想できたが、フランス料理になると“どうやったらこんな味になるんやろ”と不思議でたまらなかった。そんなこともあり、就職活動をせず、料理の勉強・海外住まい・一人暮らしという3つの夢をかなえるため、フランスの料理学校、ル・コルドン・ブルーへ留学することに。

 

「1年間のコースで授業料が200万円以上、生活費や寮費を合わせると負担も大きいですが、母は応援してくれました。父も反対しませんでしたが、うれしそうではありませんでした(笑)」

 

渡仏後に語学学校に通うも、日本人留学生が多かったために、フランス語はあまり上達しなかったが、なんとか料理用語だけは学んで無事に卒業。

 

「気に入ったレストランで働かせてもらったり、日々、頭は食のことでいっぱいでした」

 

帰国後はフランス料理店でアルバイトしながら、自宅で料理教室を開いた。

 

「でも、現地でおいしかった料理が、日本ではそれほど感動しないんです。食材や気候風土の違いかと思いました。逆に和食の美しさ、おいしさに改めて気づきました」

 

生活できるほどの収入もないままフワフワした生活を送っていたときに再会したのが、夫となる良和さん。数年前から母のバイオリン仲間だったのだ。良和さんは由依子さんの印象を「かわいらしい人やな」と語るものの、由依子さんは、

 

「バイオリンに来る人は日曜日の朝からガチャガチャやるし、ゆっくりできないので、あんまりやったんです」

 

そんなある日、由依子さんの自転車が撤去されてしまった。遠くの保管場所に取りに行くことになり、大きな車を持っている知人が良和さんだったのだ。

 

「話すと意外に面白い人」で、交際がスタート。当時、良和さんの母・紀美子さんは脳腫瘍で、余命3カ月だった。

 

「結婚するなら、母が生きているうちに」とプロポーズされたが、23歳と若く、社会人経験もない娘を心配したのは父だった。

 

「『お商売の家は大変や』と心配して、主人にも『お店の具合はどうなんや?』と聞いていました。そのときは『大丈夫です』と答えていたし、『お店のことは手伝わんでええから』と約束してくれはったんです」

 

交際開始から4カ月後の2001年に執り行った結婚式を見届け、紀美子さんは58歳で亡くなった。

 

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