冬は温泉地で調理補助の勤務後に“温泉三昧”で給料も出る(写真:8x10/PIXTA) 画像を見る

「会社を定年退職したら、全国を旅行して回りたいと、ずっと思ってたんです。とはいえ私、そんなに裕福なわけではありませんから。旅先でお仕事してお給料がもらえて、しかも、住み込みなので宿泊費も不要、場所によっては朝昼晩のまかないまで出るって……。『これは絶対、参加するしかない!』って、そう思ったんです」

 

神奈川県在住の青木聡子さん(仮名・60)が「参加するしかない」と力を込めたのは、いま50代以上の人たちの間にジワジワ広がる新しい旅のスタイル「おてつたび」のこと。今春、定年を迎えた青木さん。早速、兵庫・有馬温泉のホテルで1カ月間、おてつたびを体験。1日8時間、調理補助の仕事に従事したという。

 

「指導係の人に教わりながら料理の盛り付けをしたり、仕込みをしたり。週に2日のお休みには、しっかり地域を観光することもできました。それも、名所・六甲山と同等の夜景が眺められるのに、地元以外ではあまり知られてなくて混雑していない展望台など、ガイドブックにはない穴場情報を教えてもらえたので、より深く、観光も楽しめたと思います」(青木さん)

 

さすが「日本三名泉」に数えられる有馬温泉、青木さんが寝泊まりしていた女子寮には、ジェットバス付きの大浴場が完備されていた。そのうえ、通常なら日帰り入浴4千円のホテル内の温泉も、従業員割引で破格の500円に。そんな、夢のような“温泉三昧”の1カ月間にも、当たり前だが給与が出た。

 

「お給料は18万5千円でした。1回目のおてつたびから、すごく恵まれた経験ができたなと思っています」(青木さん)

 

この驚きの仕組みを提供しているのが、その名も「おてつたび」という会社。社長の永岡里菜さんは言う。

 

「おてつたびとは『お手伝い』と『旅』を掛け合わせ、ネーミングしたものです。全国各地の人手不足でお困りの事業者さんと、リーズナブルに旅をしたい人とをマッチングするサービス。私どもは人手不足という危機的状況を、人と人、人と地域の出合いのチャンスと捉えているんです」

 

2018年のスタート以来、注目度は右肩上がり。いまや、おてつたびは47都道府県に約2千件もの受け入れ先事業者があり、参加を希望する登録者は8万人にのぼる。シニア層の人気も高く、4人に1人が50歳以上だという。

 

「豊富な人生経験や知見が、受け入れ先から必要とされるケースは少なくありません。シニア人材のニーズは確実にあります。これまでの最高齢の参加者は84歳の男性。岐阜県の農家さんで、トマトの収穫をするおてつたびをされていました」(永岡さん)

 

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