お酒のあてにぴったりのミネフジツボ (院地域連携研究センター『食べるフジツボ』研究プロジェクト) 画像を見る

海岸でよく目にするフジツボ。漁業関係者からは網や船に付着する迷惑な生物と思われていたり、世間でも「フジツボで足を切ったら、膝の皿にフジツボが生えてしまった(実際にはあり得ないので心配は無用)」という都市伝説や、フジツボが密集した姿に恐怖を感じる、など良いイメージのない生き物だ。

 

しかし、そんな嫌われ者のフジツボには意外な側面がある。ダーウィンの『種の起源』執筆のきっかけになったといわれているのがこのフジツボなのだ。ダーウィンは、世界に1000種類以上いるというフジツボの多様性に魅了され、8年間もフジツボの研究を行っていたんだそう。さらに驚くべきことに、フジツボには“高級食材”としての一面まであるのだという。

 

「フジツボは貝と誤解されることが多いのですが、じつは甲殻類。エビやカニの仲間です。ゆえに、その味もエビやカニに似ています。西日本では浜料理としてカメノテが食べられますが、このカメノテもフジツボ(蔓脚類)の一種。カメノテの仲間、ペルセベは、スペイン料理やポルトガル料理では欠かせない、人気の高級食材なんです。さらに、南米チリにはピコロコという巨大フジツボがいて、最大40cm、普通でも大人の握りこぶし以上のサイズになります。そのピコロコをスープの具材とした『スパ・デ・ピコロコ』はチリ・サンティアゴのクリスマスの定番料理だそうです」

 

そう語るのは、八戸学院地域連携研究センター『食べるフジツボ』研究プロジェクトの中心メンバーであり、八戸学院大学特任教授の鶴見浩一郎先生。じつは鶴見先生、もともとはフジツボが船底などにくっつかないようにするための研究者。フジツボがついていると航行速度が3割も落ちてしまうのだそう。鶴見先生の研究室にはフジツボを飼育する水槽が並んでいたという。

 

「ある時、『フジツボがおいしいらしい、日本酒と相性抜群だ』という噂を耳にしました。でも、私にとってフジツボは、殺虫剤メーカーでいうゴキブリや蚊のようなもの。最初は全く食べる気が起きませんでした。あるとき意を決し、美味しいといわれるミネフジツボを入手して煮て食べてみたら、びっくりするほどおいしかったのです」

 

イメージとは正反対の味に感動し、すぐさまミネフジツボの養殖を決心したんだそう。鶴見先生を奮い立たせるミネフジツボ、いったいどんな味なのだろうか。

 

「青森などの寒流系の海に生息するミネフジツボは、殻を割って身を取り出し、黄金色に輝く卵巣にしゃぶりつくと、エビ・カニをさらに上品にしたような旨味が口中に広がります。とにかく卵巣が美味しいので、産卵の準備が始まる前、成熟が進んだ8-9月頃が最もお勧めです。

 

現在、ミネフジツボは漁獲・養殖ともに少なく、幻の食材とも言われていますが、青森県内を中心に提供している飲食店や小売店があります。フジツボの殻から身をひっぱり出して、残ったつゆに日本酒をいれてのむと非常に美味ですよ」

 

残念ながら今の時期は、産卵後のため身がほとんどなく食べるのには向かないそう。しかし、6月~10月の間は豊洲市場にも出回り、都内だと高級料亭でも出されることがあるのだとか。ネットでも購入できるという。

 

来年の夏は、フジツボを存分に楽しめるかも……?

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