「認知症にならないためには、丁寧な歯磨きをして、歯の健康を守ることが大事。特に、かむための要の歯である、“第1大臼歯”を死守することが、認知症を予防する第1歩です」
こう語るのは、横浜市にある医療法人恒久会「江口歯科・矯正」の江口康久万院長。認知症は、今後10年で高齢者の5人に1人が発症するといわれている。しかし、原因は多様で、効果的な治療法もないのが現状。生活習慣を見直すことが認知症予防といわれることも多いが、江口先生が注目しているのは、歯のケアだ。
「残っている歯の本数が健康寿命と比例していることはよく知られていることです。アゴを開け閉めするだけで、30種類以上の筋肉が動きます。筋肉が動けば血流がアップします。かむ行為がポンプの役目をはたし、血液をどんどん脳へ送ってくれるのです。認知症の予防にも、かむということが大きく影響しているのです」
認知症を発症していない65歳以上の4,425人を対象に4年間を追跡した調査で、歯を失ったうえに義歯を使っていない人は、20本以上歯が残っている人の1.85倍も認知症になるリスクが高いことがわかった。さらに、認知症を発症しても歯のケアをした結果、進行のを抑えられたという報告もある。認知症と歯は深い関係にあるようだ。
「40歳以上で、最初に抜けてしまうことが多いのは、下アゴの両側にある“第1大臼歯”(奥から3本目の歯)です。この歯が抜けると、隣の歯が傾き、その真上のかみあう歯も歯肉のなかから出てしまい、いずれ抜け落ち……と、ドミノ倒しのように続きます。第1大臼歯が、すべての歯を失う第1歩。この第1大臼歯を残すためにケアしていくことが、認知症にならないためにも大切なのです」
ただ、下の第1大臼歯がすでに抜けてしまった人でも、義歯やインプラントで補うことで、ほかの歯を失うリスクを大きく減らせるそうだ。さらに40代以上になると、歯周病で歯を失うケースが多いが、この第1大臼歯に関しては、4割が虫歯によるもの。つまり、しっかり磨けば残せる歯だという。
「歯磨きの基本は、食後すぐ、1本ずつ丁寧に磨くこと。歯間ブラシを活用して、汚れが残らないように。歯の根元は、毛先の柔らかい歯ブラシで優しく磨きましょう」
重要なのは、基本の歯磨きを習慣づけることだという。
「歯を磨くことが、健康を保ったり認知症の予防になったりすることを自覚して磨くだけでも違います。年に2回以上は、歯科医院で歯石をとってもらい、歯の健康状態をチェックすることも大切。歯はいつまでも元気でいるための大切なパートナーなのです」