「痛みや被ばくの危険性がない乳がん画像化システム『マイクロ波マンモグラフィ』の実用化に向けて、私たちはプロトタイプとなる機器を開発しました。これからいよいよ医療機関で治験がスタートし、早ければ’21年の冬以降、全国の病院に設置することを目指します」
こう語るのは、世界初の画像化システム『マイクロ波マンモグラフィ』の開発者である神戸大学数理データサイエンスセンターの木村建次郎教授(40)。9月13日、神戸大学で行われたプロトタイプ機の研究成果発表には、実用化と普及促進に協力する企業関係者らが出席。新聞、テレビなどメディアも多数訪れ、大きな注目を集めていた――。
厚生労働省が40歳以上の女性を対象に、2年に1回乳がん検診を受けるよう呼びかけているにもかかわらず、’16年に同省が実施した国民生活基礎調査によると、受診率は全国で44.9%。半数にも達していないのが現状だ。それほどまでに乳がん検診が敬遠されるのには、X線マンモグラフィが持つ撮影における痛み、X線による人体への影響のリスクが背景としてある。
そんな乳がん検診の難点を解消したのが、この「マイクロ波マンモグラフィ」という技術だ。
「微弱な電波を出すアンテナを使い、乳房の表面を軽くなぞるようにスキャンし、我々が導き出した世界初の計算理論を用いて、乳房内の構造を立体的な画像で写し出します。表面をなぞるだけで、痛みはない。さらに、機器が発するマイクロ波は、携帯電話の1,000分の1以下の微量の電波なので、身体に与える影響もほとんどないと考えられます」(木村教授・以下同)
マイクロ波マンモグラフィが持つメリットはそれだけではない。
「プロトタイプ機を使用した臨床研究では、高濃度乳房を含む全ての乳房で、高い乳がん検出感度を持つことが示されました」
乳房は、乳腺と脂肪、そして乳房を支える靱帯で構成されている。「高濃度乳房」とは乳腺と靱帯が密集している乳房のことで、これはX線を遮断してしまうため、がんを見つけることが困難とされてきた。アジア人女性の35~50歳未満の約8割、50~65歳未満の約6割がこの「高濃度乳房」に当てはまるという。
「マイクロ波は、高濃度乳房を貫通し、がん組織に当たった際、著しく反射する。その波形を解析し、数秒でがん組織を含む乳房全体を立体画像で写し出します。つまり、検査後すぐに、画像化することができるんです」
木村教授は、反射して散らばったマイクロ波から、物体の形を導く計算式を世界で初めて導き出した人物。そしてその数学的理論と、高い周波数のマイクロ波を発生させ観測する半導体技術を合わせて完成したのが、この装置なのだ。