年齢を問わず、日本人の1/4が悩んでいる腰痛。このコロナ禍でさらなる増加傾向にあるのは事実だが、なかには内臓疾患に由来する痛みもあり、放置すれば命にかかわることも。その危険を見逃さないための対処法を覚えておこうーー。
「腰痛のほとんどは、骨や筋肉、関節の不調からくるものです。ところが、確率は1割ほどと少ないものの、なかには内臓疾患が原因で痛みが現れるケースがある。自覚症状が出にくい“沈黙の臓器”とは異なり、腰は“きちんとものを言う器官”なので、その声に耳を傾けることが大切です」
そう語るのは、総合内科の専門医である池谷敏郎先生。著書『腰痛難民』でもその必要性を訴えているが、担当した患者のなかにも“病気の最初のサインが腰痛だった”ケースは多々あるという。実際、どのような症例があるのだろうか。
「痛み止めを飲んでも腰と背中の痛みが引かない、と悩んでいた患者さんは、膵臓がんでした。また、なんとなく腰が痛いと感じていた人が、慢性腎盂炎であったり、乳がんの骨転移だったこともあります。さらには、ぎっくり腰だと思ったら大動脈瘤破裂だった、というケースも。ちなみに、大動脈瘤の患者さんの9割に、腰痛があるといわれています。腰が痛いことと内臓の病気が結びつかず、こちらからうかがわない限り、内科で腰痛を訴える人が少ないのが現状です。そのため適切な治療を受けられず、いつまでも治らないまま“腰痛難民”になってしまうのです」
腰痛はおもにどんな内臓疾患と関係があり、また、その見分け方はあるのだろうか。
「腰痛と関係しやすいのは、腰の裏に位置する“後腹膜”の中にある臓器の疾患です」
内臓疾患など病気に起因する腰痛には次のものがある。
■後腹膜にあるおもな臓器(器官)
【十二指腸】
胃もたれ、胸やけがある。ストレスが多い人は注意。
【膵臓】
症状はないことが多い。糖尿病の人は注意
【腎臓】
排尿に違和感がある。倦怠感を伴うことが多い。
【尿管】
排尿に違和感がある。
【子宮】
不正出血、月経痛、月経不順がある。
【腹部大動脈】
体勢を変えても痛みが変わらない。高血圧の人は特に注意。
■その他
【がんの骨移転】
がんの罹患経験がある。特に肺がん、乳がん、前立腺がん、多発性骨髄腫など。
【心因性】
大きなストレスや不安を感じているとき。
「ただし、痛みの感じ方は人によって違うので、この場所のこの痛みならこの内臓の疾患、と特定するのはとても難しい。くれぐれも、自己判断は禁物です。少なくとも、腰に悪いことをした覚えがまったくないのに急に痛みが出たとき、整形外科を受診して1カ月ほど様子をみても改善しない場合は、内臓の疾患を疑い、医師に相談するべきです。もちろん、整形外科でもさまざまな可能性を考えますが、内科の専門医でない以上、見逃すこともありえます。原因が見つかるまで、消化器内科(膵臓、十二指腸など)、泌尿器科(腎臓、尿管など)、循環器科(腹部大動脈)、女性の場合は婦人科(子宮)を受診しましょう。それでも原因がわからない場合は、心因性という可能性も」
受診する際は、大学病院や総合病院でなくても、診療所やクリニックで対応可能。また、かかりつけ医がある場合には、そちらから専門医の外来を紹介してもらうのが理想的だ。
「ただし、急に現れた腰痛で、次の6つの症状がひとつでもあるときは、ためらわずに救急車を呼んでください。(1)どんな姿勢をとっても痛みが和らがない。(2)痛みがどんどん強くなる。(3)強く痛む場所が移動する。(4)血圧が下がってきた。(5)血尿が出た、または排尿時に激しい痛みがある。(6)便や尿がもれる。腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、馬尾症候群、尿路結石など、緊急性の高い病気の可能性があります」
「女性自身」2021年3月23日・30日合併号 掲載