冬を代表する魚の「ブリ」が、温暖化の影響で取れる海域が変わってきて、この秋は北海道沖で豊漁になっているという。
「食料品の値段が上がって、家計のやりくりに頭を抱えているという主婦の方も多いと思います。これからの季節、体にもお財布にもやさしいブリはおすすめです」
そう語るのは、管理栄養士の伊達友美さん。伊達さんは、食事カウンセラーとして32年にわたり食改善のアドバイスを行っている。伊達さんが注目しているのは、ブリの栄養価の高さだという。
■「ブリ」は単体でもこんなに栄養豊富!
【タンパク質】
アミノ酸が豊富で、切り身を一切れ食べれば1食に必要なタンパク質の約2倍を取れる。タウリンも豊富なので疲労回復にも。
【DHA・EPA】
いずれもオメガ3脂肪酸で、DHAは脳の働きをよくし、EPAは血液をサラサラにする。
【ビタミンA】
目や皮膚の粘膜を健康に保ち、抵抗力を高める働きがある。
【ビタミンD】
脂に溶けるタイプのビタミンなので、ブリの脂を一緒に取ると吸収がいい。カルシウムの吸収を助け、骨の健康に役立つ。
【ビタミンE】
脂に溶けるタイプのビタミンで、ブリの脂を一緒に取ると吸収がいい。抗酸化作用があり、血行を促すので、冷えの改善や美肌に役立つ。
【ビタミンB群】
糖質、脂質、タンパク質の代謝に必要。
【カリウム】
余分な塩分を排出させ、むくみの改善に役立つ。
【鉄と銅】
鉄分は銅と一緒に取ることで造血作用が促進される。貧血対策に。
【ヨウ素】
エネルギー代謝に必要で、体脂肪の燃焼をサポートする。
「寒さに耐えようと脂をため込むので、寒い地域で獲れる天然のブリは脂が乗っています。とにかく栄養素が豊富で、1切れ(200グラム)程度食べるだけで、1食に必要なタンパク質の約2倍を補えます。このほかにも、エネルギーの代謝を助けるビタミンB群、抗酸化作用があり免疫力を高めるビタミンC、カルシウムの吸収を助けるビタミンDといったビタミン類や、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルが豊富です。注目したいのは青魚の脂に含まれるオメガ3脂肪酸のDHA・EPAです。特にブリにはDHAがたくさん含まれているのです」(伊達さん)
全国の自治体では、認知症予防の一環としてDHA・EPAを取るために「青魚を食べること」を推奨する動きが出てきている。
なぜDHA・EPAが脳にいいのか? 脳神経外科医で「おくむらメモリークリニック」(岐阜県岐南町)の奥村歩院長に聞いてみた。
「DHAは脳の構成成分そのもので、神経細胞や神経細胞同士をつなぐシナプスも不飽和脂肪酸で作られています。EPAは血管を拡張させて血行を促進する働きがあります。つまり、DHAは脳を活性化させて、EPAは脳内の血流を促すので、2つの成分が両輪となって脳の健康を維持するのに役立っているのです。ただし、人の体内で作ることができないので、食べ物から取る必要があります。脳には『認知予備力』という働きがあります。若いうちは魚をあまり食べなくても、脳の働きを維持する力が備わっています。中高年以降は認知予備力が低下するので、食べ物で脳の成分であるオメガ3脂肪酸などの不飽和脂肪酸を補う必要が出てくるのです」
アメリカのシカゴで65歳以上を対象に1993年から2012年まで続いた調査では、魚を摂取した地域の人は摂取しない地域の人と比べてアルツハイマー型認知症の発症リスクが70%低下する、といった結果もある。
厚生労働省がまとめた「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、DHA・EPAを取る目安は、50~69歳の女性で1日1.9グラムとされている。
「毎日食べ続けるのは大変なので、私のクリニックでは、患者さんに『1週間に2回、ブリの照り焼きを食べるように』と勧めています。DHA・EPAを取ることで認知予備力が高まり、認知症の予防にもつながるのです」(奥村院長)